第29話 小さな隊列
翌朝。
薄明かりの差す森の外れで、ひとつの小さな墓が築かれていた。
粗末な石を積み上げただけの塚。けれどそこには、涙と祈りが込められていた。
「……ありがとう、アリシア」
カイは拳を胸に当て、深く頭を下げた。
瞳は赤く腫れていたが、その光はもう迷ってはいなかった。
奴隷たちも一人ひとり、墓の前に花や小石を供えた。
誰もが涙を流しながらも、その表情には確かな決意が宿っていた。
「行こう」
カイは振り返り、奴隷たちを見渡した。
子供を抱えた母親、杖をつく老人、震える若者。
戦える者は少ない。けれど、皆が「自由」という同じ希望を胸に抱いていた。
「これからは、オレが前を歩く。
オレは……解放者になる。
だからみんなも、一緒に生きてくれ」
その言葉に、奴隷たちは静かに頷いた。
やがて一行は列をなし、森の奥へと歩き出す。
母が子を背負い、若者が老人を支え、互いに助け合いながら進む。
まだ小さな隊列。
だが、それは確かに新たな歴史の始まりだった。
カイは先頭に立ち、拳を握りしめた。
紅と蒼の瞳が朝の光を映し、まるで未来を射抜くように輝いていた。
「待ってろ……。オレが必ず、世界を変える」




