第26話 団長の誇り
光の奔流が収まり、地下水路には静寂が広がった。
粉々になった《聖槍破陣》の残滓が、白銀の雪片のように舞い落ちる。
荒い息を吐きながら、カイは拳を握りしめて立ち尽くしていた。
だが、その隣でアリシアが崩れ落ちている。
「アリシア……! しっかりしろ!」
カイは必死に抱きかかえる。
だが彼女の肌を覆う呪印は黒く爛れ、生命を蝕むように広がっていた。
「……ごめんね。もう……限界みたい」
アリシアは弱々しく微笑む。
その様子を見ていたレオンハルトは、血に濡れた鎧のまま剣を杖に立ち上がった。
その瞳には、怒りでも憎しみでもなく、冷徹な光と……わずかな敬意が宿っていた。
「奴隷の子供と、呪われし女か……。
私をここまで追い詰めるとは、まさしく怪物だ」
カイは憎しみに燃える瞳で睨みつける。
「次は……絶対に、あんたを倒す!」
レオンハルトはかすかに笑った。
「……その言葉、武人として覚えておこう」
白銀の騎士団員たちが動揺していたが、団長はただ手を上げて命じた。
「退け。今日の戦はここまでだ」
「だ、団長……!」
「命令だ」
それだけを告げ、白銀の騎士たちは闇へと消えていった。
残されたのは、カイとアリシア、そして震える奴隷たち。
アリシアの呼吸は浅く、瞳は遠のきつつあった。
「……カイ。これで……いいのよ」
「やめろ! 置いていくなんて、絶対にしない!」
「違うわ。あなたは……前に進むの。私の分まで……」
その言葉に、カイの喉が詰まる。
熱い涙が頬を伝い落ちた。
――アリシアの命の灯火は、今まさに消えようとしていた。




