第235話 大戦前夜
――決戦前夜。
連邦の旧議事堂に仮設された陣営には、静けさと緊張が入り混じっていた。
松明が揺らめき、遠くでは兵たちが武器を点検し、歌声で士気を高めている。
仲間たちはそれぞれの場所で、明日への覚悟を固めていた。
「カイ、ちょっと」
セレナが近づき、微笑む。
「少しでも歌を聴いて眠って。戦う前に、心を落ち着けて」
静かな子守唄のような旋律が夜空に広がる。
カイは目を閉じ、仲間の声と歌に包まれながら、明日への不安をわずかに和らげた。
その頃、鍛冶場ではオルドが槌を打ち鳴らしていた。
「ふん……最後の調整だ。鉄も人間も、火にくぐれば強くなる」
汗と火花が散り、彼の背後にはドワーフや連邦の職人たちが集まっていた。
互いに黙り込み、ただ槌の音に耳を澄ませる。
それは祈りにも似た音色だった。
一方、ライオネルは獣人兵と共に円陣を組んでいた。
「お前たち! 怖がるな! 俺が前に立つ! 明日、吠えるのは俺たちだ!」
兵たちが吼え、鬣が炎のように揺れる。
その中心で、ライオネルは力強く拳を突き上げた。
テントの奥では――フィオナが瞑想していた。
杖を前に置き、冷たい目を閉じる。
「……明日、また血を流すのですね」
独り言のような呟きが、夜の空気に消える。
だが彼女の心には、仲間を護り抜く固い意志が宿っていた。
ミラはその隣のテントで、翼人兵をからかいながら笑っていた。
「やっほー! 緊張しすぎだよ! アタシが全部吹き飛ばしてあげるからさ!」
その無邪気さに、若い兵たちの顔にも少し笑みが戻る。
ルカは焚き火の前で刃を研いでいた。
火に照らされた瞳は静かで、だが奥に燃える炎は揺るぎない。
「……あぁ。必ず護る」
短い言葉が、誓いのように響く。
そして――エステルは議事堂のバルコニーに立ち、街を見下ろしていた。
「皮肉じゃないわよ。……ここから先は、夢想家じゃ生き残れない」
その目は冷徹だが、指先はわずかに震えていた。
彼女もまた、仲間と共にある明日のために立つのだ。
夜は更ける。
それぞれの想いが交差し、静かな鼓動が戦の序章を刻む。
――明日、大陸を揺るがす戦いが始まる。




