第232話 絶望と希望
王国の都、帝国の城下、公国の市場――。
三国連合の布告は瞬く間に広まり、人々の心に恐怖を植え付けた。
「世界敵だと……!? あのカイという奴が……」
「奴隷を解き放つなんて狂気の沙汰だ! 秩序が崩れる!」
「これで商売が台無しだ……!」
広場に集まった民衆はざわめき、鎖に繋がれた奴隷たちは怯え、空気は重苦しく沈んでいた。
兵士たちは誇らしげに槍を掲げ、声高に叫ぶ。
「恐れるな! 王の威光の下、帝国の拳の下、公国の富の下!
我らが“敵”を討ち、人類の栄光を守るのだ!」
だが――別の場所では、別の声も上がっていた。
農村の片隅で、かつて解放された獣人の少女が拳を握る。
「カイ様がいなかったら、私はまだ奴隷だった……。どうしてあの人が悪なんですか!」
港町の酒場で、人魚族の若者が立ち上がる。
「歌を奪われ、沈黙を強いられていた俺たちに、声を返してくれたのは誰だ? 人間じゃない……カイだ!」
森の集落で、エルフの老人が杖を突きながらつぶやく。
「二百年の怯えを砕いたのは、あの混血の少年だった。私は……彼を信じる」
一方、連邦の広場には人々が群れをなし、不安と期待を入り混じらせていた。
そこにエステルが立ち、皮肉げに口を開いた。
「皮肉じゃないわよ、事実よ。
三国の支配者たちは“世界敵”という言葉で恐怖を煽っている。
でも本当に脅かしているのは何? ――自分たちの特権よ」
その言葉に、ざわめきが広がる。
「……確かに」
「私たちの税をむさぼり、奴隷を増やしたのはあいつらだ」
沈んでいた空気に、少しずつ火が灯っていく。
やがて、ひとりの子供の声が上がった。
「カイお兄ちゃんを信じてる!」
その無邪気な叫びに、民衆の頬に涙が伝った。
「……そうだ、信じよう」
「俺たちの未来を託せるのは……あの人たちしかいない!」




