第231話 世界敵の烙印
――大陸全土に布告が走った。
王国の鐘楼が鳴り響き、帝国の軍旗が大空を覆い、公国の街々では奴隷商が声を張り上げる。
「カイ=リベルタスとその一派は人類を脅かす世界の敵!
奴隷を解き放ち、秩序を乱し、我らが繁栄を妨げる悪魔の軍勢である!」
その声は魔道通信によって大陸中に拡散された。
道端の民は怯え、兵士は槍を握り、奴隷商人はにやつき、支配層は喝采を送る。
だが同時に――声なき声が、各地でさざめき始めていた。
「……カイ様がいなければ、私は今も鎖につながれていた」
「翼を自由に羽ばたかせてくれたのは、あの人たちだった」
「歌を取り戻してくれた……共に笑う日々をくれた……」
人間至上の宣告は、解放された種族たちの胸に逆風のように火を点けたのだ。
「……来やがったな」
連邦の旧議事堂跡。
カイは広げられた布告文を叩きつけるように机に置いた。
「“世界敵”か。わかりやすいじゃねえか」
ライオネルが獰猛に笑い、大剣を肩に担ぐ。
「威圧にすぎません」
フィオナは冷ややかに文を一瞥し、長い銀髪を払った。
「ですがこの布告で、大陸中の兵力が私たちに向かうのも確実でしょう」
「なるほどね。つまり“連合軍”か」
エステルが皮肉を込めて吐き捨てる。
「秩序の守護者を気取った連中の、最期のあがきってわけ」
「……楽観視はできん」
オルドは腕を組み、深い皺に険を刻む。
「奴らは大地を割り、空を裂き、兵を奴隷に変えてでも勝ちにくる。こっちも腹を括らねばならん」
沈黙が場を覆う。
その沈黙を破ったのは――カイだった。
「……いいじゃねえか」
拳を握りしめ、彼はまっすぐに仲間たちを見回す。
「世界敵だろうがなんだろうが、俺たちがやってきたことは間違っちゃいねえ」
その声に、セレナが微笑む。
「歌を取り戻してくれたこと……私はずっと忘れない」
ミラが翼を広げて笑う。
「やっほー! 世界敵? 上等じゃん! 派手に暴れてやろーよ!」
ルカが短く言葉を重ねる。
「……あぁ。共に戦おう」
そしてカイは高らかに布を掲げた。
それは、これまで解放した種族たちの色を縫い合わせた旗――
「解放と共存の旗」。
「俺たちがやることは一つだ!
この旗を掲げて、大陸のすべてを解放する!
もう誰も鎖に縛らせねえ!!」
仲間たちの目に炎が灯り、決意が重なっていく。




