第219話 連邦全土を巻き込んだ宴
メルティナが倒れ、支配の鎖は断ち切られた。
その報せは瞬く間に連邦全土へと広がり、各都市から人々が流れ込んだ。
瓦礫と化した法廷の跡地、そして広場では、誰が指示するでもなく――自然発生的に、解放の宴が始まっていた。
人間族と獣人族が並んで酒を酌み交わし、魚鱗族が即席の水槽を作っては子供たちを泳がせる。
エルフは歌を、ドワーフは酒を、精霊族は花や光を捧げ、街全体が一つの巨大な祭りへと姿を変えていった。
「信じられないな……」
ライオネルが肉を頬張りながら呟く。
「さっきまで互いに牙を剥いてた奴らが、こうして隣で笑ってる」
「わだかまりが完全に消えたわけじゃないわ」
フィオナが杯を傾ける。
「でも……彼らは思い出したのよ。自分で考えて、手を取り合って生きることを」
セレナの歌が流れ、子供たちが手を繋いで踊り始める。
ミラはその中心で翼を広げ、輪の中に飛び込んで笑わせていた。
「やっほー! 誰が一番上手に回れるか勝負だよ!」
「キャハハ!」
人魚の娘と獣人の少年が肩を組んで笑う光景は、ほんの数日前なら到底ありえなかっただろう。
「……人々が変わっていく様をこうして見られるとはな」
オルドが杯を掲げる。
「鉄を打つよりも価値がある光景だ」
「……悪くない」
ルカが短く呟き、焼き肉を串ごと頬張る。
その隣では、フィオナが「あの食べ方は行儀が悪い」と小言を言うが、笑みは隠せなかった。
「やれやれ、結局は人間族の私が一番場違いに見えるわね」
エステルが皮肉を言い、わざとらしく肩をすくめる。
するとミラがすかさず突っ込んだ。
「お堅いお姉さんだと思ってたけど、けっこうノリいいんじゃん!」
「……俺は」
カイは少し離れた場所で、人々の笑顔を眺めながら呟いた。
「こんな光景を、ずっと見たかったんだ」
その拳には、まだ戦いの余韻が残っている。
だが心の奥では、ようやく訪れた平和の瞬間を噛みしめていた。
その時だった。
ドォォォン……!
腹の底まで響く重低音が広場を揺らした。
振り返ると――。
「……は?」
カイは目を丸くする。
そこには、大きな和太鼓を抱え、豪快に叩き鳴らす魚鱗族の男――ハルドの姿があった。
「よぉぉぉし! 景気づけだァァ! 俺の太鼓で宴をもっと盛り上げるぞォ!」
「なんでお前、またいるんだよォォォ!」
カイとライオネルが同時に叫ぶ。
民衆は爆笑し、太鼓の音はさらに強く響き渡った。
誰もが種族の違いを忘れ、ただ解放と勝利の喜びに身を任せる夜だった。




