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第216話 エステルの思い

 瓦礫の法廷で繰り広げられる激闘。

 七色の光を纏うカイと、黒金の炎を纏うメルティナ。

 拳と拳がぶつかり合うたび、轟音と衝撃波が響き渡り、観衆はただ息を呑んで見守るしかなかった。


 その中で、エステルは震える手を握りしめていた。

 剣も槍も魔法も持たない。自分にできることは、何ひとつないのではないか――そう思いかけた。


「……私はただの人間。数も法も操れない……」

 唇を噛む。

「じゃあ、私は……何のためにここにいるの?」


 仲間たちの背中は決して折れない。

 それでも、カイの身体は血に濡れ、限界は近いと見て取れた。


「……っ!」

 エステルは振り返り、観衆の方を見据える。


「みんな!」

 彼女は声を張り上げた。

「カイを助けて! お願い、彼はあなたたちを守るために戦ってる!」


 その声に民衆がざわめく。

 だがすぐに、誰もが首を振った。


「……無理だ……」

「力も……魔力も、あの女に奪われてしまった……」

「もう何も残っていないんだ……」


 絶望に沈む声が広がる。

 エステルの胸が締め付けられる。


 ――その時。


「がんばれー!」

「まけるなー!」


 甲高い声が響いた。

 見れば、小さな種族の子供たちが、涙ぐみながら拳を振り上げていた。

 獣人の幼子、魚鱗族の少年、エルフの少女。種族もばらばらの子供たちが、必死に声をあげていた。


「……!」

 その声は波紋のように広がっていく。

 子供たちのか細い応援を聞き、民衆は俯いていた顔を上げた。


「せめて……声だけでも」

「応援なら……できるはずだ!」

「届いてくれ……!」


 やがて、法廷を埋め尽くす人々が、一斉に声を振り絞った。


「カイ!」「負けるな!」「俺たちの希望だ!」


 圧倒的な声援の渦が広間を揺らし、七色の光はさらに大きく燃え上がる。


 エステルは涙を堪えきれず、胸に手を当てた。

「……これが……私にできること……! あなたの理想を、人々の声で支えること!」


 カイの背に、無数の声が重なった。

 その瞬間、彼の拳は再び、燃え上がった。

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