第204話 理想殲拳
法廷を揺るがす熱気の中、メルティナは最後の切り札を掲げた。
黄金の書板が黒光りし、彼女の周囲に再び鎖が渦巻く。
「まだ終わらない……!
法は絶対だ! 数字は揺るがない!
――《法典拘束・極裁》!」
法廷全体に巨大な魔法陣が展開され、民衆までも巻き込もうとする。
鎖は空を覆い、光を奪い、あらゆる存在を「負債者」として拘束しようとしていた。
「やめろッ!」
カイが前へと踏み出す。
蒼紅の光が彼の身体を包み込み、轟音と共に解放されていく。
「《混血顕現――三重解放》ッ!」
翼が、鱗が、巨人の力が彼の肉体を駆け巡り、拳に全ての力が収束する。
「……法も数字も、道具に過ぎない!」
カイの叫びが広間を震わせた。
「人を守るために使わなきゃ意味がない!
これが俺たちの答えだァァァッ!」
拳が振り抜かれる。
必殺――《理想殲拳》
蒼紅の閃光が黒金の鎖を粉砕し、法廷を覆っていた魔法陣を跡形もなく吹き飛ばした。
「うっ……!」
メルティナが崩れ落ち、黄金の書板が砕け散る。
民衆からは歓声が上がり、法廷を埋め尽くす。
「勝った……!」
ライオネルが拳を掲げ、仲間たちが肩を寄せ合う。
しかし――。
粉塵の中から、ゆらりと立ち上がる影があった。
議長メルティナ・ローデン。
口元には血が滲み、身体は震えている。だがその瞳は未だ冷たく光っていた。
「……勘違いしないことね」
メルティナは低く、不気味に笑った。
「この裁判は確かに“地裁”では終わった……だが――まだ“高等裁判”が残っている」
「なっ……!」
エステルが息を呑む。
「法の階層は無限。あなたたちがどれほど足掻こうと、私は必ず上告し続ける」
メルティナは指先で血を拭い、冷徹に言い放った。
「まだ……裁判は終わっていない」
その宣言に法廷の空気は再び凍りついた。
勝利を掴んだはずの仲間たちの胸に、黒い予感が広がっていく。




