第198話 証言合戦
議長メルティナが示した数字は、重苦しい空気となって法廷を支配していた。
数千という犠牲者の数字が光の書板に刻まれ、民衆の視線は揺れ動いている。
「数字は嘘をつかない」
メルティナが冷ややかに告げる。
「犠牲の上に成り立つ“正義”など存在しない」
だがその時、傍聴席の一角から声が上がった。
「嘘だ! 俺は救われた!」
ざわめきが走る。
立ち上がったのは、かつて鉱山奴隷として鎖につながれていた男だった。
「俺たちを虐げていたのは人間族の貴族だ!
だがこの人たちが来て、俺たちを自由にしてくれた!
もし戦わなければ、今も俺は地下で死んでいた!」
「そうだ! 俺もだ!」
別の声が響く。
次々と立ち上がる人々。
獣人、精霊族、魚鱗族――各地で救われた者たちの姿がそこにあった。
「数字で命は測れない!」
魚鱗族の老人が震える声で叫ぶ。
「ここに立っている私の孫は、カイたちが守ってくれたから生きている!
数字には記されていない救いがあるんだ!」
「私も……」
翼人族の少女が涙を流しながら声を震わせた。
「奴隷の鎖を外してくれたのは、この人たち……! その手は血でなく、希望で私を掴んでくれた!」
傍聴席は次第にざわめきから歓声へと変わっていく。
それは“数字”を越える生きた証言だった。
「……くだらない感情の連鎖」
メルティナの目が細められる。
「証言など、買収や虚偽でいくらでも作れる」
「じゃあ、これはどう?」
エステルが前に出て冷ややかに返す。
「この証言をすべて、議会の公式記録に残しましょう。
法の場で語られた言葉は、たとえあなたでも否定できない」
メルティナの眉がわずかに動いた。
だがすぐに冷徹な笑みを浮かべる。
「面白い……ならば続けなさい。だが覚えておくことね。
法廷は劇場。観客の心を掴むのは一瞬でも、結末を決めるのは“判決”よ」
その挑発を受け止め、カイは強く拳を握った。
「証言は俺たちの剣だ。――どんな数字よりも重い“真実”だ!」
歓声が再び法廷を揺らす。
連邦を揺るがす戦いは、ますます熱を帯びていった。




