第197話 開廷
鐘の音が三度鳴り響き、白亜の裁判所の大扉が重々しく開かれた。
中に広がるのは円形の法廷。高い天井には黄金の天秤の紋章が掲げられ、数千人の民衆が傍聴席を埋め尽くしていた。
舞台は整った。
――今日、この場で異端の旅人たちの“正義”が裁かれる。
「被告人、入廷!」
声が響き、カイたちは堂々と歩みを進めた。
ライオネルは威圧するように胸を張り、フィオナは冷ややかな視線で場を見渡す。
セレナは竪琴を抱え、静かに民衆を励ます旋律を爪弾き、ミラは「やっほー、舞台って感じ!」と小声で笑った。
ルカは黙してカイの隣に立ち、オルドは戦鎚を杖のように支えて歩く。
「原告、議長メルティナ・ローデン」
その名が呼ばれると、民衆からどよめきが起こった。
白銀の衣を纏ったメルティナが、悠然と姿を現す。
冷徹な微笑を浮かべ、指先には金色の書板を携えていた。
「始めましょうか。――この裁判は公開裁判。連邦の民すべてが証人です」
「第一の罪状」
メルティナが書板を鳴らすと、巨大な魔法陣が展開された。
「異端の旅人たちは、各地で“人間族を殺害”し、“秩序を乱した”。これは重大な反逆行為である」
「なっ……!」
傍聴席から怒号と悲鳴が飛ぶ。
「黙って聞いてられるか!」
ライオネルが立ち上がりかけるが、エステルが腕を引き止めた。
「落ち着いて。これは法廷――ここでは“言葉”が剣よ」
「弁護側はどう答える?」
メルティナの冷たい声が響く。
カイは一歩前に進み出た。
胸の奥に渦巻く緊張と怒りを飲み込み、真っ直ぐに民衆を見据える。
「俺たちは殺すために戦ったんじゃない。
――守るためだ! 奴隷にされ、踏みにじられた命を救うために!」
その言葉に、傍聴席からざわめきが走る。
「救われたんだ、俺たちは!」と叫ぶ者も現れた。
しかしメルティナは動じない。
「感情論では法は揺らがない。……数字を見なさい」
彼女の書板に数字が刻まれ、戦場で失われた命の数が次々と浮かび上がる。
「これがあなたたちの“犠牲”の証よ」
広間の空気が凍りついた。
民衆の視線は揺れ、仲間たちも息を呑む。
「……ここからが本番だ」
エステルが低く囁く。
「感情を真実に変え、数字の鎖を断ち切らなきゃならない」




