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第193話 傷の癒しと策謀

 戦いの余韻が消えた宿の広間は、荒れ果てていた。

 倒れた刺客たちは縄で縛られ、窓から差し込む月光が血の跡を照らしている。


「ルカ、肩の傷を見せて」

 セレナが駆け寄り、竪琴を抱えながら膝をついた。

「これ以上出血すれば危険よ」


「……心配はいらん」

 ルカはいつものように淡々と答えるが、額には汗が滲んでいる。


「強がりはやめなさい」

 フィオナが眉をひそめ、蒼樹の杖を掲げた。

「《治癒光》」


 柔らかな緑の光がルカの肩を包み込み、裂けた肉を少しずつ塞いでいく。


「……助かる」

 ルカは短く礼を言ったが、その声音はどこか不器用で、逆に温かさを感じさせた。


「へへっ、なんだかんだでルカも仲間っぽくなってきたな!」

 ミラが明るく笑い、場の重苦しさを少しだけ和らげる。


「仲間、か……」

 ルカは小さく呟き、視線を伏せた。


 一方、エステルは机に並べた羊皮紙と帳簿に目を走らせていた。

 その表情は冷徹そのもの。


「……刺客を差し向けられたということは、議長メルティナが私たちを“敵”と認めた証拠ね」


「じゃあ、次はもっと派手に来るってことか」

 ライオネルが腕を組む。


「えぇ。正面からの弾圧も、さらに巧妙な裏工作もあり得る。

 だからこそ、こちらも次の一手を急がなければならない」


「次の一手……」

 カイが拳を握り、考え込む。

「俺たちがやるべきことは何だ?」


「まずは裏銀行の全貌を暴くこと」

 エステルがきっぱりと言い切った。

「そこから議会に繋がる証拠を掴み、民衆の前で“法の裁き”を公開する。

 剣ではなく紙で、議長を追い詰めるのよ」


「……剣じゃなく、紙で戦う」

 カイはその言葉を胸に刻んだ。


「だが忘れるな」

 ルカが低い声で口を挟む。

「法の戦いでも、敵は必ず血を流させようとしてくる。

 ――だから、守る力も決して緩めるな」


 その忠告に、カイは力強く頷いた。

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