第186話 エステルの試練
翌日。
連邦の商人街の一角――石造りの大きな工房に、カイたちは呼び出されていた。
そこに立っていたのは、昨日出会ったエステル・ローデンだった。
「来たわね。昨日は失礼したわ。でも、試さなきゃならなかったの」
彼女は涼しい顔でそう告げた。
「今日はあなたたちの力を“法”に則って整える。連邦流のやり方でね」
「……整える?」
ライオネルが首をかしげる。
「武具よ」
エステルは壁際の鍛冶台を示した。
「あなたたちの武器や防具は優れている。でも、この国では“名前を持たぬ武具”は無価値と見なされるの。
正式に名を与え、登録し、認められて初めて“正義の力”になる」
「名前……」
カイが自分の拳を見下ろした。
エステルは仲間一人ひとりに視線を向け、手際よく魔法陣を展開していく。
淡い光が武具を包み込み、次々と名前が刻まれていった。
カイ:蒼紅拳鎧
フィオナ:蒼樹の杖/精霊の法衣
セレナ:海歌の竪琴
ライオネル:獅皇剣
オルド:轟鉄戦鎚
ミラ:風弓
ルカ:鬼裂双鉈
名が与えられた瞬間、それぞれの武具は淡い輝きを放ち、まるで意思を宿したかのように主の手に馴染んでいく。
「おおっ……! 剣が、吠えてるみてぇだ!」
ライオネルが目を輝かせる。
「ふむ……鍛冶師としても興味深い技術だな」
オルドが顎髭を撫でながら頷いた。
「アタシの弓、なんか風が纏ってる! やっほー!」
ミラは楽しげに跳ね回る。
「……どう?」
エステルがカイに問う。
カイは拳を握り、頷いた。
「不思議だ。力を与えられたんじゃなく……認められた気がする」
「そう。法っていうのは本来、人を縛るためだけじゃない。
“存在を証明するもの”でもあるのよ」
「だがな」
エステルの目が鋭くなった。
「名を持った武具は、同時に“責任”を背負う。
それを使うあなたたちが誤れば、連邦中にその罪が知れ渡ることになるわ」
「……つまり、甘えは許されないってことか」
カイが静かに応じる。
「そういうこと」
エステルは微笑んだ。
「連邦で戦うなら、力も、法も、名も――全てを持って挑みなさい」




