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第182話 ルカとの対話
傭兵たちを追い払い、広場には一瞬の静けさが戻った。
奴隷にされかけていた者たちは怯えながらも安堵の表情を浮かべ、ルカは黙々とその場に立っていた。
大鉈の刃は夕陽を受け、赤黒く輝いている。
「助けてくれてありがとう」
カイが歩み寄り、素直に礼を告げた。
しかしルカは眉ひとつ動かさず、短く返す。
「礼は要らん」
「でも、あんな連中に立ち向かうなんて……普通の人にはできない」
カイは視線を落とし、拳を握った。
「……俺も、大切な人を守れなかったことがある。だから、こういう光景を見ると胸が痛むんだ」
その言葉にルカの目が細められる。
彼女は大鉈を肩に担ぎ直し、しばしカイを見つめた。
(……理由は分からない。だが、この少年の目は――孤独を知る者の目だ)
その瞳の奥に宿る影は、彼女の胸に妙なざわめきを呼び起こした。
戦士としての同情でも、仲間意識でもない。
もっと柔らかく、温かい、母性的なものだった。
「……お前は弱くない」
ルカは低く、だがはっきりと言った。
「え?」
カイが顔を上げる。
「影を背負ってもなお前に進んでいる。……なら、それで十分だ」
彼女はそう言い捨て、背を向けた。
「……ありがとう、ルカ」
カイの呟きに、ルカは一瞬だけ足を止めた。
だが何も言わず、大鉈を背にしたまま群衆の中へ消えていった。




