第181話 連邦潜入
天空都市を後にしたカイたちは、草原を越え、ついに大陸の商業の中心――ローデン連邦へと辿り着いた。
大小の都市が網の目のように広がり、街道には商隊がひっきりなしに行き交っている。
金貨と契約が何よりも優先されるこの地は、人の欲望そのものを形にした世界だった。
「すげぇ……どこを見ても商人だらけだな」
ライオネルが腕を組みながら呆然と街並みを見渡す。
「商人都市群……名ばかりじゃないわね」
フィオナは冷静に分析するように呟いた。
「貨幣経済の発達と金融の支配……王国や帝国の軍事力とは別の、厄介な“力”よ」
「つまり金が全てってことね!」
ミラが両手を広げて笑う。
「分かりやすいじゃん!」
「……その軽さが心配になるな」
カイが苦笑する。
そんな中、一行は広場で一つの騒動に遭遇する。
傭兵たちが奴隷を引き立て、露店に並べようとしていた。
その前に立ちふさがる、長身の女性。
赤黒い双刃の大鉈を携え、鬼の角を額に戴いた魔人族――。
「やめろ」
低く、鋭い声が広場に響く。
「この街でどれほどの掟があろうと、命を物のように扱うことは許さない」
「なんだこの女! 余所者が口を挟むな!」
傭兵の一人が剣を振り上げる。
だが次の瞬間、女は大鉈を振り抜いた。
風を切る轟音と共に、男の剣は粉々に砕け散った。
「ひぃっ……!」
傭兵たちは慌てて逃げ出していく。
カイたちは思わず息を呑んだ。
「……すげぇな」
ライオネルが口笛を吹く。
「腕っぷしだけなら俺に負けてねぇかも」
「……あぁ?」
女は短く返事をしただけで、大鉈を肩に担ぎ直す。
その姿勢と眼差しには、孤独な戦士の気配があった。
「あなた、名前は……?」
セレナが問いかけると、女は一瞬だけ視線をこちらに向け、答えた。
「……ルカ。ルカ・バーンブレイド」
「ルカ……」
カイはその名を呟き、心に刻んだ。




