第18話 闇路の逃走
包囲を突破した一行は、夜の街を必死に駆け抜けた。
松明の明かりは追ってくる。鐘の音は鳴り止まず、兵士たちの怒号が四方から響いていた。
「このままじゃ、追いつかれる……!」
アリシアが息を荒げながら呟く。
鎖を引きずった足は限界に近い。それでも彼女は奴隷たちを庇い続けていた。
その時、石畳の隙間に鉄格子の排水口が見えた。
鼻をつく湿った臭気と、水音。
「……ここなら!」
カイは拳を振り下ろし、格子を粉砕した。
「下へ降りろ! 早く!」
アリシアの声に導かれ、奴隷たちは次々と水路へ身を滑り込ませる。
冷たい水の感触に悲鳴を上げる子供たちを、母が必死に抱き寄せた。
最後にカイとアリシアが飛び降りると、すぐ頭上を兵士の足音が駆け抜けていった。
「……撒いたな」
湿った闇の中、アリシアが小さく息を吐く。
背中を壁に預けると、その体は血と汗に濡れて震えていた。
「アリシア……大丈夫か?」
「ええ……少し休めば」
そう言うものの、彼女の顔色は青白い。呪印は黒ずみ、血の気が引いていた。
カイは唇を噛み、拳を強く握った。
「オレ、もっと強くならなきゃ……。みんなを守れない」
闇路を流れる冷たい水音だけが、少年の胸の誓いを聞いていた。
奴隷たちは震えながらも、互いに寄り添い、静かな安息を得ていた。
だがその平穏は、長くは続かない。
夜の街では、さらに大きな追撃の包囲網が築かれつつあった。




