第179話 美食・美酒と艶やかな夜
天空温泉街の夜は、昼とはまるで別世界だった。
湯煙に包まれた街路には提灯のように光る浮遊石が灯され、屋台や居酒屋からは賑やかな声と香ばしい匂いが溢れていた。
「すごい……! これ全部、温泉街の特産物なのね」
セレナが目を輝かせる。
「ほら、これなんか見てみろよ!」
ライオネルが屋台から串焼きを掴んで戻ってくる。
「“浮遊鯨の肋肉”の炙りだとよ! 口に入れた瞬間に旨味がとろけるぜ!」
カイも一口もらい、驚きで目を見開いた。
「……柔らかいのに弾力がある。これ、本当に鯨なのか?」
「ふふっ、雷酒と一緒にどう?」
セレナが勧めてきたのは、青白い光を放つ酒だった。
「少し強いけど……疲れが吹き飛ぶわよ」
「おおー! こっちも負けてらんねぇ!」
オルドが大ジョッキを掲げ、豪快に飲み干す。
「ぐわははっ! 身体の芯まで燃える酒だな! カイ、お前も飲め!」
「い、いや、俺はまだ……」
慌てるカイに、ミラがにやりと近づく。
「ほらほらカイ、女の子に飲ませてもらいなよー?」
そう言って、彼の口に雷酒を無理やり押し込んだ。
「ぶはっ……! か、体が熱い……!」
「やっほー! 赤くなってる赤くなってる!」
ミラは腹を抱えて大笑いした。
やがて、一行は温泉宿の大広間へ。
そこでは舞姫たちが艶やかな衣装で舞を披露していた。
「なぁなぁ、これ衣装も借りられるってよ!」
ミラが目を輝かせ、早速着替えて戻ってきた。
露出の多い舞姫装束に、翼をきらめかせながらくるりと回る。
「どう? 似合うでしょ!」
「……派手すぎるわ」
フィオナが目を逸らす。
「じゃ、次はフィオナの番ね!」
「はぁ!? 私は遠慮――」
だが、セレナとミラに両脇を抱えられ、結局衣装を着せられてしまった。
フィオナが舞姫装束で現れると――仲間全員が固まった。
「お、お堅いお姉さんが……!?」
ミラが声を裏返らせる。
「……っ、黙りなさい!」
フィオナは顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
しかし、その冷ややかな横顔と装束の対比に、大広間はどよめきに包まれた。
「うう……私まで……」
セレナもまた衣装を着せられ、静かに舞台に立たされる。
酔いも手伝い、彼女は竪琴を爪弾きながら澄んだ歌声を響かせた。
その瞬間、場の空気が変わった。
観客も仲間も息を呑み、歌と舞に魅了されていく。
「セレナ……」
カイは赤面しつつも、その姿から目を逸らせなかった。
一方、舞姫装束を着る気のないオルドとライオネルは酒比べに突入。
「ほら、飲めオルド!」
「はっ、まだまだ若造!」
大ジョッキを次々と空け、最後には二人とも大の字で転がった。
「まったく……子どもみたいね」
フィオナがため息をついたが、その声はどこか楽しげだった。




