第177話 出発の朝
夜明けの光が天空都市を染めていた。
昨日の祝宴の余韻はまだ街に残っていたが、広場にはすでに大勢の翼人たちが集まり、カイたちを見送ろうとしていた。
「……行くのね」
評議会長が静かに頷く。
「次は連邦。どうか気をつけて……そして、必ず帰ってきてほしい」
「任せろよ」
ライオネルが白い歯を見せる。
「掟に縛られた都市を救ったんだ。次は連邦でもっと暴れてやるさ」
「……暴れるって言い方はどうかと思うけど」
フィオナが呆れながらも微笑んだ。
その時、またしても腹の底に響く太鼓の音が鳴り響いた。
「どん、どん、どどんっ!」
「……まさか……」
ミラが首を傾げると――やはりそこにいた。
「よぉ、弟分たち!」
魚鱗族のハルドが太鼓を担ぎ、どや顔で登場した。
「お前……また現れたのか……!」
オルドが額に手を当てる。
「当然だろ? 見送りくらいはしてやらねぇとな!」
ハルドは太鼓を叩きながら笑った。
「じゃあ一緒に来ればいいじゃない」
セレナが穏やかに微笑むと、ハルドは慌てて首を振った。
「いやいやいや! 俺ぁ戦うのは性に合わねぇんだ。
太鼓は叩けるが敵は叩けねぇ! そんでもって、連邦までは乾いた大地だろ?
魚鱗族の俺が砂漠を歩いたら、あっという間にカッピカピになっちまう!」
そう言って両腕を広げ、大げさに干物の真似をする。
「……くだらない……」
フィオナがため息をついたが、その口元には微かな笑みがあった。
「だがな」
ハルドは太鼓を軽く叩き、真剣な顔になった。
「俺がここに残って太鼓を鳴らし続けりゃ、この都市の連中も勇気を出せるはずだ。
お前らがどこに行っても、この空の下で太鼓の音が聞こえたら――“仲間が生きてる”って思い出せ」
「……ああ」
カイが頷く。
「太鼓の音、忘れない」
「任せろ! じゃあな、弟分! 次はもっとデカい太鼓を用意しとくぜ!」
ハルドはドドンと一発叩き、翼人たちの歓声に紛れて姿を消した。
笑いと涙が入り混じる見送り。
翼人たちが空を舞い、羽根を散らすように舞い降ろす。
カイは仲間たちと視線を交わし、拳を握った。
「行こう。連邦へ――新しい未来を掴むために」




