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第172話 解放の空

 轟音が止んだ。

 雷雲は裂け、暴風は消え、残ったのは青々とした空と陽光だけだった。

 長きにわたり嵐に覆われていた天空都市に、ようやく光が差し込んだのだ。


「……勝った……のか……」

 ライオネルが大剣を支えに立ち上がり、呆然と空を見上げる。


「ええ……間違いないわ」

 フィオナが杖を下ろし、緊張の糸を解いた。

 その表情には安堵と、わずかな笑みが浮かんでいた。


 崩壊しかけた都市の広場に、人々が次々と集まってきた。

 翼人の子どもを抱いた母親、戦いを恐れて逃げ惑っていた老人、掟に縋るしかなかった評議会の者たち――

 全員の瞳が、ただ一人の戦士を見つめていた。


「……カイ……!」

 セレナが竪琴を抱え、震える声で名を呼ぶ。


 カイは肩で荒く息をしながらも、確かに立っていた。

 紅と蒼と白と金の光は消え、拳には血が滲んでいる。

 それでも彼の瞳は、迷いなく前を向いていた。


「ありがとう……ありがとう……!」

 一人の翼人が膝をつき、涙を流す。

「掟を信じてきた私たちを、鎖から解き放ってくれた……!」


 その声に呼応するように、群衆が一斉に頭を垂れる。

 拍手が鳴り、歓声が響き渡る。


「救世の戦士たちだ!」

「嵐を打ち破った英雄たちだ!」

「もう掟なんかいらない……自由に生きる未来を!」


「……カイ。あなた、本当にすごい人ね」

 フィオナが小さく呟く。


「やっほー! これでアタシたち、マジで伝説じゃん!」

 ミラが笑い、翼を広げて空を舞った。


「英雄か……そんな柄じゃねえけどよ」

 オルドが照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「弟分、胸張れよ」

 ライオネルが笑い、大きな手でカイの肩を叩いた。


「……俺はただ……みんなと一緒に生きたいだけだ」

 カイは拳を下ろし、住民たちを見渡す。

「掟じゃなく、鎖でもなく――互いに支え合える空を……」


 その言葉に、翼人たちは涙を流しながら頷いた。


 青空が広がる天空都市。

 鎖に縛られていた空は、ようやく「解放」の名にふさわしい光景を取り戻したのだった。

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