第17話 包囲網突破
石畳の路地を駆け抜けた先で、カイたちは立ち止まった。
前方の大通りにも、後方の路地にも、松明を掲げた兵士が溢れている。
屋根の上からも矢が番えられ、四方八方が炎の壁で塞がれた。
「囲まれた……!」
アリシアの顔に焦燥が浮かぶ。奴隷たちの息は荒く、これ以上の逃走は不可能だった。
兵士たちが陣形を整える。盾を前に並べ、槍を突き出し、じりじりと迫ってきた。
その動きには恐怖よりも、侯爵の仇を討たんとする憎悪が滲んでいた。
「貴様らに逃げ場はない! 今ここで灰となれ!」
カイは振り返り、震える奴隷たちを見た。
小さな子供が泣きながら母の裾を掴んでいる。
彼の胸の奥で、熱い何かが弾けた。
「……なら、オレが道を作る!」
蒼と紅の瞳が交互に瞬き、胸の魔法陣が脈打つ。
背から半透明の翼が広がり、全身が赤黒い光に包まれた。
「――《暴走解放》ッ!!」
衝撃波が石畳を砕き、兵士たちが思わず後退する。
カイは咆哮と共に突進し、盾ごと兵士を弾き飛ばした。
槍を振り下ろした兵は拳一撃で宙を舞い、石壁に叩きつけられる。
「アリシア!」
「わかってる!」
アリシアは呪剣を振り抜き、赤黒い斬撃を盾列に叩き込んだ。
「――《血契呪剣》ッ!」
呪印の斬撃が兵をまとめて薙ぎ払い、鎧を砕く。
火花と血飛沫が散り、突破口が生まれる。
「今だ、走れ!」
カイの叫びに、奴隷たちが一斉に駆け出した。
矢が降り注ぐが、アリシアが赤黒い壁を展開して防ぐ。
その背後でカイは、次々と迫る兵士を叩き伏せる。
「クソッ……止めろ、止めろぉ!」
指揮官の叫びも虚しく、包囲の輪は次第に崩れていった。
――こうしてカイとアリシアは、死の包囲網を突破した。
だが街全体が敵である以上、逃亡劇はまだ始まったばかりだった。




