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第163話 決戦の兆し

 雷光と嵐が交錯し、仲間たちの連携でヴォルテクスの巨体が後方に吹き飛んだ。

 仮面が砕け散り、衣服が破け上半身があらわになり、破片が雷鳴の中に消えていく。


 露わになった素顔――それは深い傷跡と、狂気に燃える瞳を宿した翼人族の男だった。


「……人間じゃない……翼人族……!」

 フィオナの目が見開かれる。


「そうか……」

 オルドが低く唸り、戦鎚を地に叩きつけた。

「昔、聞いたことがある……“空の復讐鬼”の噂を。


 数十年前、とある浮遊集落で人間の妻と娘を掟を理由に殺された翼人族がいたと。

 掟を破った者は生かす価値がない――そう叫んだ狂信的な群衆に、彼は家族を奪われた。


 そして……姿を消し、やがて“空賊王”と呼ばれる怪物になったと」


 ライオネルが歯を食いしばり、大剣を握り直す。

「……本当にそんなことが……!」


「ええ、信じられる話だわ」

 フィオナの声は冷ややかだが、その奥にわずかな痛みが混じっていた。


 ヴォルテクスは仮面を失った顔で、低く笑った。

「……よく知っているな、ドワーフの老兵。

 ああ、その通りだ。俺は妻と娘を掟に殺された。

 人間と翼人族、種族を超えて愛し合っていたのにだ。


 ――だがそれは、人間が翼人族を狩ったことへの報復でもあった。

 ただ、翼人族を狩った人間がいた街に妻と娘は買い物に行ったことがあっただけで、何の接点もないのにだ。

 排斥が排斥を生み、復讐が復讐を呼ぶ。

 その異常なまでの輪を、俺はこの目で見たのだ!」


 雷光が翼に迸り、彼の声が都市全体に響いた。


「お前も体験しただろう、異常なまでの排斥主義の人々を!

 掟という鎖で縛り合い、同胞すら平然と殺す狂気を!


 だからこそ俺は決めた。

 ――全ての種族を俺が空から統治する!

 空の掟を廃し、新たな独裁の掟を俺が刻むのだ!」


「……独裁だと……?」

 カイが歯を食いしばり、拳を震わせた。

「それじゃあ、お前もまた鎖を作るだけだ!」


「鎖の何が悪い!」

 ヴォルテクスが吠える。

「鎖なき自由は無秩序を生み、無秩序を縛る掟ができる。

 その掟はやがて狂気を招くを知っていてもだ!

 ならば俺が嵐となり、全てを飲み込み、俺だけが掟となるッ!」


 狂気の雷光が天を裂き、浮遊都市全体を揺るがした。

 住民たちは怯え、掟を守ってきた長老たちすら言葉を失う。


 だが――仲間たちは拳と武器を握りしめ、瞳を逸らさなかった。


「……違う」

 カイが低く、しかし力強く言い放つ。

「掟に縛られる未来も、独裁に支配される未来もいらない。

 人間の女性をお前が愛したように、俺たちは一緒に生きていけるはずなんだ!

 ――そのために、まずはお前を縛り付けている、その鎖を断つ!」


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