第153話 空賊の噂
裏市場での一件のあと、カイたちは都市の目を避けながら宿に身を寄せていた。
だが耳に入ってくるのは、どこも同じ名前だった。
「――ヴォルテクスがまた艦を沈めたらしい」
「今度は南の浮遊集落が襲われたって」
「掟を守らぬ者は、奴に空から裁かれるのだ……」
恐怖と怯えが、翼人族の街に広がっていた。
「……完全に“空の掟”と結びつけられてるわね」
フィオナが眉をひそめる。
「掟を破れば、ヴォルテクスに制裁される。そうやって恐怖を利用している」
「でも、おかしいだろ」
ライオネルが低く唸る。
「奴がただの空賊なら、どうして公国の物資が市場に流れてた?」
「……裏で繋がってる。そう考えるのが自然だな」
オルドが頷き、杯を置く。
「ヴォルテクスって、どんな奴なんだ?」
カイが問うと、ミラが顔を曇らせた。
「……空の王を名乗る狂人。
『空こそ我が王座だァ!』って高笑いして、竜巻や雷で都市ごと吹き飛ばす。
掟を破った家族も、一夜で……」
声が震え、言葉が途切れる。
「……ミラ」
カイがそっと肩に手を置く。
「大丈夫。俺たちが奴を止める」
セレナが静かに竪琴を奏でる。
「掟も、恐怖も……歌で消し去ってしまいたい」
「任せな!」
ミラが無理に明るく笑い、翼を広げた。
「ヴォルテクスがなんだ! アタシたちが空を取り戻すんだ!」
その声は、夜の都市の暗闇を切り裂くように響いた。




