第15話 逃亡の始まり
崩れ落ちた地下牢を抜けると、夜風が吹き込んできた。
焦げた血と鉄の匂いの中に混じる冷たい風は、奴隷たちの肺を初めて自由に満たす。
「外だ……!」
「生きて出られたんだ……!」
解放された奴隷たちの声は震え、涙と嗚咽が混じっていた。
アリシアは鎖を引きずったまま、カイの隣に立つ。
その顔には疲労の色が濃く浮かんでいたが、瞳はまだ消えてはいない。
「……このまま街を抜けるわよ」
「うん。でも……みんなは?」
振り返れば、十数人の奴隷が震える足で立ち尽くしている。
年寄りも、子供も、歩くのがやっとの者もいた。
「守ると決めたんだろう?」
アリシアの言葉に、カイは強く頷いた。
「……そうだ。オレが……解放するんだ」
その瞬間、夜空を裂く警鐘の音が響いた。
「奴隷どもが逃げたぞ!」
「屋敷が燃えている! 侯爵が討たれた!」
街中に怒号が広がり、松明を掲げた兵士たちが次々と現れる。
鎧の音、馬の嘶き。あっという間に路地は塞がれていく。
「追手が来るわ。……ここからが本当の戦いよ」
アリシアの声には恐怖よりも覚悟が宿っていた。
カイは奴隷たちを背に立ち、拳を握る。
紅と蒼に輝く瞳が、闇を切り裂いた。
「オレは……絶対に誰も渡さない!」
その叫びと共に、少年の逃亡劇が始まった。




