第140話 ハルドの旅立ち
砂漠都市の広場に朝日が差し込む頃。
ハルドは大きな荷車に太鼓を括り付け、解放された奴隷たちを前に立っていた。
魚鱗族や精霊族を中心に、老若男女が列を作っている。
「……本当に行くのか、ハルド」
カイが前に出て問いかけた。
「ああ」
ハルドは頷き、笑みを浮かべる。
「俺は戦じゃ役に立たねぇ。太鼓は叩けるが、敵は叩けねぇからな」
その言葉に、場がどっと笑いに包まれた。
「だからこそ、俺にできることをする。
みんなを人魚族や精霊族の街へ連れて行く。
そこなら安全に暮らせるし、俺の太鼓も響かせられる」
「……ハルド」
セレナが竪琴を抱きしめ、瞳を潤ませる。
「あなたの音は、きっと人々の心を守ります」
「任せろ。太鼓の音で街ごと勇気づけてやるさ!」
ハルドは胸を叩き、豪快に笑った。
「元気でな、ハルド!」
ライオネルが手を差し出す。
「次に会うときは、太鼓の音で俺の咆哮に負けんなよ!」
「誰が負けるか! その時は一緒に演奏だ!」
二人は豪快に握手を交わした。
「……あなたの選択は正しいわ」
フィオナは静かに告げた。
「戦場に残るより、もっと多くの命を救える」
「だろ? 俺なりの戦い方さ」
ハルドはにやりと笑う。
奴隷だった者たちは、不安の影を振り払うように顔を上げた。
皆、希望に満ち溢れた目をしていた。
砂漠の朝日に照らされるその姿は、確かな未来への第一歩だった。
「じゃあな、カイ! お前らも無茶すんなよ!」
ハルドは太鼓をドン!と叩き、旅立ちの合図とした。
人々はその音に勇気をもらい、砂漠の道へと進み出す。
その背中を見送りながら、カイは静かに呟いた。
「……ありがとう、ハルド。お前の音は、きっとどこかで響いてる」




