第14話 解放の誓い
炎の怪物は消え、地下を覆っていた灼熱も静まった。
残ったのは、瓦礫と焦げた血の臭い、そして泣き叫ぶ奴隷たちの声だった。
「……本当に……倒したのね」
アリシアは壁にもたれ、血に濡れた体を震わせながら呟いた。
呪剣の輝きは消え、鎖に縛られた彼女の腕には痣が浮かんでいる。
カイは荒い息を吐きながら、拳を見つめた。
幼い掌には、まだ侯爵の血の温もりが残っている。
「……オレは……人を殺した」
その声はかすれ、震えていた。
アリシアは首を振り、カイの肩に手を置いた。
「違うわ。あなたは仲間を守るために戦ったの。――その拳は、誰かの命を奪うためじゃない。誰かの命を救うためにある」
その言葉が胸に刺さり、少年は目を閉じた。
やがて、ゆっくりと立ち上がる。
崩れた牢の奥には、鉄格子の中で震える奴隷たちがいた。
人間、獣人、精霊族、そして魔人の子供たち。
怯えた瞳がカイを見上げている。
「……出してやる」
カイは拳を振るい、鉄格子を砕いた。
鎖を千切り、鍵を壊し、一人また一人と奴隷を解放していく。
その姿に、奴隷たちの瞳が少しずつ変わっていった。
「ありがとう……!」
「生きて、いいの……?」
涙交じりの声が広がる。
カイは振り返り、アリシアと奴隷たちに向かって言った。
「オレは……もう逃げない。
オレの力は、みんなを解放するために使う。
――奴隷を、全部……自由にする!」
その幼い叫びは、瓦礫に響き渡り、やがて誓いとなって刻まれた。
アリシアは静かに頷き、目を細める。
「……それが、あなたの道なのね」
――こうして、少年カイ・ノクトは「解放者」としての第一歩を踏み出した。




