第130話 圧殺の剣戟
名無しの巨体が動くたび、広間全体が震えた。
大剣が振るわれるたびに、石床は抉れ、砂煙が舞い上がる。
その無慈悲な剣戟は、言葉も感情もなく、ただ“殺す”という本能だけで繰り返されていた。
「はぁっ!」
ライオネルが大剣を叩きつける。
「――《獅子咆哮斬》ッ!」
轟音と共に衝撃波が走るが、名無しはわずかに腕を動かして受け流す。
続くカイの拳も、分厚い鉄塊の剣で弾かれた。
「ちっ……こいつ、受けが速ぇ!」
「なら、全力で行く!」
カイは拳を握りしめ、紅と蒼の瞳を燃やす。
「混血顕現――《二重解放》!」
魚鱗の硬鱗が腕を覆い、巨人の筋肉が隆起し、鳥人の翼が広がる。
紅と蒼の光が重なり、さらに強烈な力が全身を駆け巡った。
「うおおおおおッ!」
大地を蹴った拳が、渦巻く衝撃を伴って名無しへ突き込む。
だが――。
名無しは表情一つ変えず、剣を振り下ろした。
轟音。拳と剣が正面からぶつかり合う。
「……ぐっ!」
カイの体が軋み、腕から血が滲む。
強化したはずの肉体が、剛剣に押し潰されかけていた。
「カイ!」
ライオネルが横合いから斬りかかるが――名無しは一歩踏み込み、大剣を回転させて両者を同時に弾き飛ばした。
「ぐぅっ……!」
壁に叩きつけられ、カイは砂煙の中で歯を食いしばる。
「せっかく力を引き出したのに……合わせられねぇ……!」
「気張れよ弟!」
ライオネルが血を拭いながら吠える。
「お前が突っ込めば、俺が合わせる! それでいいだろ!」
「そんな簡単に……!」
カイは立ち上がりながら吐き捨てる。
まだ二人の呼吸は噛み合っていない。
名無しは沈黙のまま、再び剣を構えた。
その剛剣は重く、冷たく、圧倒的。
紅と蒼の光も、獅子の咆哮も、いまだその壁を越えられない。
「……くそっ。
まだ……まだ足りねぇのか!」
カイの歯噛みする声が、広間に虚しく響いた。




