第13話 血と炎の決着
暴走するカイの拳が、炎の巨体を次々に粉砕していく。
紅と蒼の光が交互に点滅し、その瞳には理性が欠片も残っていなかった。
「グ、グハハ……! それでいい、それでこそ! 貴様は化け物だ! 私の財産だァァァッ!!」
タルフ侯は炎の巨腕を振り上げ、己の身を焼き尽くす勢いで攻撃を重ねる。
カイは咆哮を上げ、拳でその一撃を受け止めた。
轟音が地下を揺らし、床が砕け散る。
力は拮抗――いや、次の瞬間にはどちらかが押し潰される。
「カイ!」
アリシアが血まみれの体で駆け寄り、短剣を掲げた。
その刃に、血と呪いが絡みつく。
「――《血契呪剣》!」
赤黒い斬撃が巨腕を裂き、隙間が生まれる。
アリシアの声が、暴走するカイの耳にかすかに届いた。
「あなたは……奴隷じゃない! 財産でも、呪いでもない! ――“生きる者”よ!」
その言葉に、カイの胸の魔法陣が震えた。
紅と蒼の光が一瞬だけ落ち着き、拳に力が集まる。
「……オレは……人間なんかじゃ、ない……でも!」
炎と呪いが交錯する中、少年の叫びが轟く。
「オレは……オレ自身だァァァァァッ!!」
「「――《暴走解放》ッ!!」」
「「――《血契呪剣》ッ!!」」
二つの必殺が同時に放たれ、炎の巨体を貫いた。
紅と蒼と黒の光が爆ぜ、侯爵の体を内側から裂き、灼熱の肉塊が吹き飛ぶ。
「バカな……財産が……私の……すべてが……!」
絶叫を残し、タルフ侯は炎と共に崩れ落ちた。
静寂。
地下を満たしていた灼熱が消え、ただ瓦礫と血の匂いだけが残る。
カイは膝をつき、荒い息を吐いた。
背中を支えるように、アリシアが寄り添う。
「……勝ったのよ、カイ」
「……オレたち、勝ったんだな……」
初めての勝利は、血と炎の中で掴み取られた。




