第129話 名無しとの死闘
静寂を切り裂くように、重い足音が響いた。
金貨の山の崩れた奥から現れたのは――巨躯の護衛奴隷、“名無し”。
背丈は三メートルを超え、筋骨隆々の体躯。
感情を失った瞳は虚無の闇。
両手で握る大剣は、まるで鉄塊をそのまま削ったような代物だった。
「……化け物だな」
カイが低く呟く。
「こいつは俺とお前でやるぞ、弟!」
ライオネルが吠えるように笑い、大剣を構えた。
「誰が弟だ!」
カイも翼を広げ、拳に紅と蒼の光を宿す。
名無しは何の掛け声もなく動いた。
巨体に似合わぬ速さで大剣を振り下ろす。
床ごと抉り取る一撃を、二人は左右に飛んで回避した。
轟音。広間の床石が粉々に砕ける。
「速ぇ……!」
カイが歯噛みする。
「化け物相手に怯んでどうする! 俺たちの力を見せつけてやるぞ!」
ライオネルが咆哮し、大剣を振り抜いた。
「――《獅子咆哮斬》ッ!」
黄金の衝撃波が名無しを直撃する。
だが、巨体は揺るがなかった。
無表情のまま受け止め、大剣を横薙ぎに振り抜く。
「ぐっ……!」
ライオネルが剣で受け止めるが、衝撃で吹き飛ばされる。
「ライオネル!」
カイが拳を放ち、衝撃を逸らすように殴り込む。
しかし名無しは無感情のまま剣を振り回し、火花が散った。
二人は背中合わせに立ち直り、同時に息を吐いた。
「……タフすぎるな」
「上等だ! 燃えてきたぜ!」
互いに視線を交わし、再び構える。
紅と蒼の瞳、黄金の瞳。
混血と獅子、二つの力が今、巨躯の剣士に挑もうとしていた。




