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第116話 奴隷市場潜入

 繁栄の喧噪に満ちた表通りを抜けると、街の空気は急に冷たく変わった。

 香辛料の匂いは消え、代わりに鼻を突く鉄と汗の臭いが漂ってくる。

 喧噪は抑えられた呻き声へと変わり、そこには異様な沈黙が広がっていた。


「……ここが、裏の顔か」

 カイは拳を握りしめる。


 案内役の獣人斥候が小声で告げた。

「表の商人や観光客は決して近寄らない区域。奴隷商の縄張りだ」


 薄暗い通りに入ると、鎖で繋がれた獣人たちが壁際に並ばされていた。

 狼、虎、兎……幼い子供まで首輪を嵌められ、無表情で俯いている。

 周囲には商人風の男たちが値踏みをするように視線を走らせ、札を交わしていた。


「……クズどもめ」

 ライオネルの低い声は怒りで震えていた。

「同胞を札束で量るなんて……」


「ライオネル、抑えて」

 フィオナが低く制した。

「ここで暴れれば、敵の懐に飛び込む前に袋叩きにされるわ」


 一行は商人を装い、さらに奥へ進んだ。

 やがて辿り着いたのは、石造りの広間――それが奴隷市場だった。


 中央には檻が並び、その中に獣人たちが押し込まれている。

 檻の上に設けられた壇上では、派手な衣装を纏った競り人が声を張り上げた。


「次は若き豹獣人の戦士だ! 力は猛虎に勝るが、まだ従順だぞ! さあ、いくらからだ!?」


 観客席には連邦の商人、公国の使者、帝国の密使までもが混じっていた。

 彼らの目は光り輝く金貨にしか向いていない。


「……吐き気がする」

 セレナが小さく呟き、竪琴を握りしめる。


 オルドが拳を鳴らし、カイは無意識に紅と蒼の瞳を光らせていた。

 ライオネルはただ黙って檻の中の獣人たちを見つめ――。

 その拳からは血が滲むほどに力が込められていた。


「……ここが大奴隷商ギルドの巣か」

 カイは低く呟いた。


 この瞬間、一行は確信した。

 バルカンという都市そのものが、鎖と札束で成り立っていることを――。

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