第108話 旅立ち
海底の住処に朝日が差し込む。
光るサンゴの街路には、人魚族と魚鱗族、そして魚人族までもが並び、一行を見送るために集まっていた。
「みんな……こんなに……」
セレナが胸に手を当て、目を潤ませる。
老若男女を問わず、多くの人々が声を張り上げた。
「ありがとう、解放者たちよ!」
「奴隷の鎖を断ち切ってくれた勇気を忘れない!」
「必ず戻ってきて、また一緒に歌おう!」
魚鱗族の代表が進み出て、カイに大きな荷を手渡した。
「これは我らが誇る干し魚と塩漬けの保存食だ。砂漠では水より貴重になるだろう」
「……ありがとう」
カイはしっかりと荷を受け取り、頭を下げた。
別の魚人が海藻で編んだロープを差し出す。
「地下交易路は迷いやすい。これを仲間同士で結んでおけ」
「なるほど……理にかなってるわ」
フィオナが受け取り、丁寧に観察する。
セレナは里の仲間たちに囲まれ、涙ぐみながらも笑みを浮かべた。
「私はもう……怯えない。必ずこの旅を終えて戻ってきます。その時は、もっと強い歌を聴かせます!」
人魚の子どもたちが「セレナがんばれー!」と声を揃え、波間に響いた。
一方その頃、オルドは……。
「おいカイ、昨夜の酒修行の成果を見せてやれ!」
「いや……まだ頭がぐわんぐわんする……」
必死に平静を装うカイの姿に、周囲はどっと笑いに包まれた。
「相変わらずね」
フィオナが呆れ顔で呟き、セレナは肩を震わせて笑っていた。
やがて、長老が静かに口を開いた。
「解放者よ。次なる舞台は砂漠の獣人都市――バルカン。
その地下に張り巡らされた交易路こそ、奴隷商の心臓部。必ず叩き潰してほしい」
カイは紅と蒼の瞳を燃やし、仲間たちに向き直る。
「行こう。今度は獣人族を解放するために!」
大きな歓声とともに、一行は海底の住処を後にした。
水面の向こうに広がるのは、灼熱の大地と砂の海――。




