第106話 海底珍騒動
翌日。
帝国艦隊との激戦を終えた海底の住処には、どこか脱力した空気が漂っていた。
戦いの緊張感から解き放たれた仲間たちは、自然と羽目を外してしまうのだった。
「ちょっとオルド! それは装飾用の巨大貝殻であって、ジョッキじゃないわよ!」
フィオナが額を押さえる。
「いやぁ、ちょうどいい大きさだと思ったんだがな! ほら、泡酒もたっぷり入るし!」
オルドが笑いながら豪快に飲み干すと、途端に貝殻の口から酒が逆流して広間にぶちまけられる。
「うわっ!? 冷てぇ!」
カイが頭から酒を浴び、魚人の子どもたちが大笑いした。
一方、セレナは……。
「えいっ……あっ……ひゃっ……!」
人魚族の女性たちに尾びれを結ばれ、強制的に“舞いの稽古”に参加させられていた。
「姫様の優雅さを見習うのです!」
「もっと滑らかに尾を振って!」
「無理です無理です無理ですってばー!」
普段は凛としたセレナが必死にくねくねする姿に、フィオナまで口元を押さえて笑みを零す。
その頃、カイは……。
「おい、待て! 俺は泳ぎじゃなく拳が専門だ!」
「ほらほら、もっと尾を振って! “飛び魚ダンス”はこうよ!」
魚鱗族の子どもたちに囲まれ、強制的に奇妙なダンスを踊らされていた。
翼をバタバタさせながら跳ね回るカイの姿は、完全に笑いの的になっていた。
「やめろーッ! 俺は混血の戦士なんだぞーッ!」
「きゃはははは!」
そして極めつけは――。
「フィオナ様! これをぜひ!」
人魚の若者が彼女に光るクラゲを手渡した。
「……これ、何かしら」
「頭に被ると賢く見える“クラゲ冠”です!」
無表情のままクラゲを頭に載せるフィオナ。
光り輝く触手が顔の横でゆらゆら揺れ……。
「……どう?」
一瞬の沈黙。次の瞬間、仲間も人魚たちも腹を抱えて笑い転げた。
「やめて……笑わないで……私は真面目よ……!」
フィオナが真顔で言えば言うほど、場の笑いは止まらなかった。
こうして海底の住処は、戦いを忘れたひとときの大騒ぎに包まれた。
笑い声と歌声が重なり、海に広がる。
それはきっと、どんな魔法よりも強い“癒やし”だった。




