第103話 決戦の余韻
黒き旗艦は炎に包まれ、ゆっくりと海へ沈んでいった。
海を覆っていた怨嗟の旋律は途絶え、かわりに静寂が訪れる。
その静けさを破ったのは――。
「……勝った……のか」
オルドが荒い息を吐き、戦鎚を海に突き立てる。
次の瞬間、海中から澄み渡る歌声が広がった。
セレナが胸に手を当て、涙を流しながら歌い出す。
それに呼応するように、人魚族たちが尾を揺らし、声を重ねた。
サメ人魚族の低い咆哮、クラゲ人魚族の透き通る響き、タコ人魚族の重厚なリズム、カニ人魚族の鋭い掛け声。
さらに、魚鱗族や魚人族たちが楽器を奏で、海の交響曲は夜明けの空へと昇っていった。
その調べは、戦場に残った傷を癒し、不安に縛られた心を解き放つ。
まるで海そのものが安堵の息を吐いたかのようだった。
「……美しい……」
フィオナが杖を抱き、深い感動に瞳を潤ませた。
「これが……本当の歌だ」
カイは呟き、セレナの方を見つめた。
セレナは歌を止め、仲間たちに微笑みかけた。
「……ありがとう。みんながいたから、私は歌えました。
恐怖に縛られていた私に、もう一度“歌う意味”を思い出させてくれたのは……あなたたちです」
涙が波に溶け、深海の瞳に光が差す。
「これからは……私もあなたたちと共に歩みます。
自由の歌を、もっと遠くまで届けるために」
海の上に朝日が昇る。
黄金の光が波に反射し、戦いの跡を優しく照らした。
それはまるで、新たな旅立ちを告げる鐘の音のようだった。




