第102話 決戦クライマックス後半
黒き旗艦の甲板に立つ帝国提督ドラゴス。
その大剣は炎と怨嗟を纏い、海そのものを呑み込もうとしていた。
「沈め――《深淵砲撃》!」
艦首から放たれた黒炎の奔流が海を裂き、津波のように解放者たちへ押し寄せる。
「来るぞ!」
オルドが戦鎚を構えるが、その規模は防ぎきれるものではなかった。
その瞬間――。
「カイさん……! 今です!」
セレナの歌声が響いた。
《蒼潮交響詠》――。
楽器と合唱の旋律が渦を巻き、カイの体を包む。
苦痛を癒し、筋肉と魔力の循環を最適化し、負担を霧散させていく。
「……そうか、これが……!」
カイは拳を握りしめ、全身を駆け抜ける力に震えた。
「俺は……もう限界に縛られねぇ!」
紅と蒼の光が翼を照らし、全身を奔流のように駆け巡る。
「――《混血顕現・二重解放》!!」
魚鱗の硬鱗、巨人の剛力、鳥人の翼、そして人間の叡智――。
混ざり合う血の力が同時に解放され、海上に神々しい光が迸った。
「なに……!?」
ドラゴスが目を見開く。
その黒炎を真正面から押し返す存在など、彼の生涯で初めてだった。
「セレナの歌がある限り……俺は倒れねぇ!」
カイが咆哮し、拳に紅と蒼の奔流を収束させる。
波を蹴り、渦を裂き、彼は一直線に旗艦の甲板へ飛び込んだ。
「うおおおおおッ!!」
拳が黒炎の奔流を突き破り、ドラゴスの大剣に直撃する。
轟音と閃光が戦場を覆い、黒炎と紅蒼の光が激突した。
だが、押し負けない。
苦痛も、負担も、限界も――セレナの歌が全てを洗い流していた。
「これで……終わりだ、ドラゴス!!」
カイの拳が黒炎を打ち砕き、提督の甲冑を貫いた。
衝撃が旗艦全体を揺さぶり、帝国艦隊を覆っていた黒き旋律が掻き消える。
セレナの歌が最後の一音を響かせた。
それは静かで、しかし確かに戦場全体を包む希望の旋律だった。
「……これが……自由の力か……」
ドラゴスの低い声が波に溶け、巨躯が崩れ落ちた。
波間に残ったのは、勝利の調べと、仲間たちの鼓動。
限界を超えた戦いの果てに、海に再び自由の歌が響き渡っていた。




