第100話 反撃の歌
黒き触腕の幻影が海を覆い、帝国艦隊の猛攻が続いていた。
鎖に繋がれた人魚奴隷たちの苦痛に満ちた旋律が海を濁し、自由を望む歌をかき消そうとしている。
「くっ……押し負ける……!」
人魚戦士が尾を震わせ、声を詰まらせる。
その時――。
海の奥から重厚な水流が轟き、光を纏った一団が現れた。
「遅れてすまねぇ! だが、これで歌はもっと強くなるぞ!」
力強い声と共に現れたのは、かつて別れた魚鱗族の戦士――ハルド。
彼の背後には魚鱗族と魚人族の仲間たちが続いており、その手には貝殻の笛、サンゴの竪琴、海獣の骨で作られた太鼓など、多種多様な楽器が握られていた。
「ハルド……!」
カイが驚きと喜びの声を上げる。
「お前たちの戦いを見て、居ても立ってもいられなくなったんだよ! 歌だけじゃねぇ、音も響かせてやる!」
ハルドが笑みを浮かべ、太鼓を叩く。
次の瞬間、海中に響き渡る低音が黒き旋律を切り裂いた。
貝殻の笛が潮風のように清らかな音を奏で、竪琴が波間をなぞるように優しく響く。
魚人たちの手による旋律が合唱に重なり、海そのものが楽器となったかのように震えた。
セレナは胸に手を当て、その音に導かれるように歌い始める。
「……ありがとう、みんな。
――これが、私たちの歌!」
澄んだ旋律が広がり、楽器の音色と絡み合ってひとつの調べとなる。
「――《蒼潮交響詠》!」
青く光る魔法陣が海に展開し、優しくも力強い波紋が仲間を包み込む。
その旋律は恐怖を溶かし、不安を勇気に変えた。
「体が……軽い! 歌だけじゃねぇ、心まで熱くなる!」
オルドが吠え、戦鎚を振り抜いた。
「これが……守るための歌……!」
フィオナの瞳にも確かな光が宿り、詠唱が冴え渡る。
カイもまた拳に力を込め、紅と蒼の光を解き放った。
「セレナ……みんな……! この歌があれば、負ける気がしねぇ!」
苦痛と絶望を糧にした帝国の旋律に、希望と勇気の大合唱が真正面からぶつかる。




