第1話 血に塗れた誕生
よければ前作もお願いします。完結済みです。
辺境伯令嬢は内政チートで世界を変える ~そして聖女は大陸を笑顔で包み込む~
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世界は、人間のものだった。
大陸の三分の二を支配する四つの国――アルヴァン王国、ガルディア帝国、ヴァイス公国、ローデン連邦。
そのどれもが人間至上を掲げ、奴隷制度を当然のように敷いていた。
精霊も、獣人も、魚鱗も、翼人も、魔人も。
人間にとっては、金と権力を飾るための道具に過ぎない。
その夜、ヴァイス公国の辺境領主タルフ侯の屋敷、地下深く。
血の臭いが染み付いた石造りの実験室に、ひとりの“子”が生まれた。
「……生きている。奇跡だ……! 四種族の血を合わせてなお、死なぬとは」
錬金魔導師が震える声で報告する。
鉄檻の中、鎖で縛られた小さな体。
白銀の髪はまだ濡れ、片目は蒼、片目は紅に光っていた。
背中には半透明の羽の痕跡。皮膚には細かな鱗が浮かび、異形の血脈を示している。
「見ろ、これが我らが投資の果実だ。――百匹の奴隷を溶かし、百年の研究を費やした結果よ」
タルフ侯は杯を掲げ、恍惚と笑った。
「キメラの子供、売れば国庫をも凌ぐ富が手に入る。だがまずは……実験だ」
子は泣かなかった。
生まれ落ちた瞬間から、ただ黙って貴族の瞳を睨んでいた。
その瞳に、侯爵は一瞬たじろぎ――そして嗤う。
「いいぞ。奴隷は牙を剥くほど、高く売れる」
だが、次の瞬間。
子の胸に刻まれた魔法陣が脈打ち、石床がひび割れた。
「な、何だ――」
爆ぜるように鎖が弾け飛ぶ。
小さな拳が振り抜かれ、魔導師の頭蓋が粉砕される。
血飛沫の中で、誰も理解できなかった。
――生まれたばかりのはずの“子”が、人を殺した。
「怪物め……! 捕らえろ!!」
衛兵たちが雪崩れ込む。火球の魔法が檻を焼き、刃が閃く。
だが幼い混血の体はすでに獣のように跳躍し、血の雨を撒き散らした。
蒼と紅に交互に光る瞳が、夜の闇を照らす。
――それが、カイ・ノクトの誕生だった。
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