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過去の影  作者: Kara:3
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Pt.6 町に向かう途中、エリオットは昔住んでいたトレーラーキャンプに寄る。そこでは、新しい出会いが待っていた。

町に向かうための道にあるのはトレーラーキャンプへの入り口。エリオットはあまり迷わずにそこに曲がって行った。何も見つかるはずはないのに。でも、思い出に浸かりたい。どれだけ。

そこで待っていたのは、新しい出会い。

エリオットがトレーラーキャンプに入るために歩いた道は道路であるとは言えないほどの有様だった。

そこらじゅう雑草や背の高い草が生えているほか、沢山の穴が空いていたからだ。時々、木が倒れていたりもした。足元を見なかったら転ぶのだろう。

歩き続けると、木でできたゲートがあった。木の柱は腐りかけていて傾いている。

吊るしてあったはずの看板はどこにもない。さっきまでは聞こえていた小鳥のさえずる音も聞こえ無くなっていて、全てが過去に取り残されたかのように静けさに包まれている。近くには小屋のような建物がある。

それもほとんど崩れているけど。小さい頃はここでジョンとかくれんぼをして遊んだものだ。

一回あの小屋に隠れて、怒られたことがある。エリオットは立ち止まって周りを見回した後、また歩き始めた。

何分が過ぎたのだろうか?最初のトレーラーが見えた。

今は誰も住んでいないけど、昔はサムおじさんが住んでいた。サムおじさんはお父さんの親友だ。

今も手紙のやり取りをしていたり、クリスマスなどの年間行事に家族で家に来てくれる。

エリオットのお父さんとサムおじさんは仕事仲間であった。そして、彼らは同じ時期に仕事を無くして、支え合っていた。それが親友になったきっかけだってお父さんは言っていたな。

エリオットは再びトレーラーに目を移した。周りは草が生い茂っていて、窓ガラスが数箇所割れている。エリオットは草をかき分けながら、ゆっくりとトレーラーに近づいて中を覗いた。

床には沢山の落ち葉が積もっている。キッチンはそこまで汚くないものの、残された鍋の中には鳥の巣らしきものがあった。一回このキッチンでクリスマスを祝ったことがある。

エリオットの家族とサムおじさんの家族で力を合わせてこのキッチンでクリスマスディナーを作ったものだ。あのクリスマスは最高だった。今も鮮明に残っている小さい頃の記憶だ。窓の割れ目から吹き込む風が、床の落ち葉をカサカサと揺らしていた。

エリオットはサムおじさんのトレーラーから離れて、他のトレーラーがあるところへとゆっくりと歩き始めた。

間もないうちに他のトレーラーが見えてきた。

白色だったトレーラーは泥で汚れていたり、錆びているものが多かった。知人が住んでいたわけでもないから、エリオットは近寄らなかった。ここにいるのは自分1人ではない気がしたから、トレーラーの中に覗き込むには結構な勇気が必要だ。だから、できるだけトレーラーを覗き込まないようにした。

誰かが見つめ返してくるかもしれない。トレーラーキャンプの一番奥からは大きな木が見えた。その木には古いブランコが「ギイギイ」と寂しそうに揺れている。近くにはヒマワリが描かれたトレーラーがある。………エリオットが住んでいたトレーラーだ。

エリオットはできるだけゆっくりと音を立てないように、トレーラーの方に近づいて行った。

窓ガラスはほとんど割れていた。エリオットは入り口のドアに近づくと、ドアノブを回してドアを引っ張った。

……が開かない。大丈夫…他にも中に入る方法がある。

エリオットは隣のトレーラーの近くに置いてあったプラスチック製の白い椅子を持ち上げた。

そして、それをエリオットが住んでいたトレーラーの窓の下にそれを置いた。これで中に入れる。

エリオットは椅子の上に上がった。窓の枠にはガラスの破片が飛び出ている。エリオットは破片に引っかからないように、中に入り始めた。誰かに見られたら、泥棒だって思われるに違いない。

もちろん、そうじゃないけど。ただ、記憶を辿りにきただけ。エリオットは自分でも驚くほど冷静だった。

キッチンに置いてあるコンロにゆっくりと降りる。体重がのしかかると、オーブンはギシッと音を立てた。

エリオットはその音を気にせずに、ただ周りを唖然と見回していた。

床に積もった落ち葉や泥で汚れた壁以外にはなにも変わっていない。錆び始めた古い冷蔵庫に貼られた家族写真もほとんどそのままだ。黄ばんで色が薄れているだけ。

写真はブルードットで捉えている。映っているエリオットはまだ4歳。隣では両親がエリオットと一緒になって笑いかけている。

お母さんのお気に入りだった緑色の水玉模様のカーテンもそのまま残っている。破れていたから、そのままこのトレーラーに置いて行ったのだ。

エリオットはオーブンから降りて、床に立った。積もった落ち葉がとても柔らかい。空気は湿っていて、カビとサビの匂いが混じっていた。落ち葉の下には水も溜まっているのか、踏むたびに「ビチャビチャ」という音がする。

エリオットはお風呂場、寝ていた場所という順番で、トレーラーの中を見回った。

全てがとても小さくなったような気がする。小さい頃はあんなに広く感じられたのに、今は狭い気がする。不思議だな。俺の寝ていたこのマットレスがこんなに小さかったなんて!

エリオットはしばらくの間、マットレスに腰を下ろしていた。すると、無意識に机の下に視線が行った。

……?丸い何かがあるような?エリオットは机の下にかがむと、それを取り出した。

空気が抜けたボロボロのサッカーボールだ。エリオットにはそれが何であるかが分かっていた。

クリスマスの時に貰った物だ。貰った時から空気は抜けていたけど、遊ぶことはできた。

これを使ってジョンと何度遊んだものか、数え切れないかもしれない。頭の中で記憶がよみがえる。

「エリオットー!ここにパスしてー!」これはジョンの声だ。エリオットは顔を上げる。木の葉はオレンジ色や赤色に染まっていて、小雨が降っている。息を吐くたびに白い霧が出る。

寒い…。エリオットは満面の笑顔で走り始めると、思いっきりボールを蹴った。

ジョンの方に蹴ったつもりだけど、ボールは右側に転がって行ってしまった。

ジョンは急いでボールを追いかけようとした。すると…「バッシャーン」。ジョンは水たまりで滑って、転んでしまったのだ。「じ、ジョン!大丈夫?」エリオットはジョンのところに駆け寄ると聞いた。

ジョンは泣くことも、怒ることもしなかった。ただ笑い始めただけ。その笑いは周りの薄暗い色の森に響いた。

エリオットも一緒に笑い出した。

……何故このボールはここに置いてかれたのか?引っ越した時に置いてきたに違いない。

よく気づかなかったものだ。きっと、ジョンと別れたのが辛すぎて、ボールのことなんてどうでも良かったからかもしれない。

今は覚えていない。お母さんには大切にするって約束したのに……でも、起きたことはしょうがない。エリオットはボールを元の場所に戻した。ここがこのボールがあるべき場所なんだ。このボールはこの場所とこの場所の記憶の一部になったのだから。

ボールから手を離すと、「カサカサ」。トレーラーの外で誰かが落ち葉の上を歩く音がした。エリオットはその音に驚いて、飛び上がって「ガンッ!」と頭を机に思いっきりぶつけてしまった。

最初は無意識に頭を押さえて座り込んだけど、こんなことをしている場合ではないと考えて急いで入り口の方に向かった。ドアの鍵は内側からなら開けられるはずだ。「カチカチ」…鍵が回らない。錆びているみたいだ。

窓から外に出るしかないようだ。エリオットは急いでコンロに登った。「ギッシ」。

そして窓の枠を掴んで、窓から出ようとした。「イッタ!」腕に鋭い痛みが走った。エリオットは痛みにできるだけ構わずに外に抜け出した。「ドッスン」背中に着地をしてしまった。

エリオットは痛みで滲んでくる涙を手で拭くと、立ち上がった。足元の草がドス黒い赤に染まってゆく。

自分の腕を見てみた。ガラスの破片が刺さっている。これは…抜き取るべきなのか……?見るだけで痛みが増す。

…いや、とにかく今はここを去ろう。エリオットは急ぎ歩きでトレーラーキャップの入り口へと向かった。

ドキドキと心臓の音が酷くうるさい。無数のトレーラーを過ぎた。もうすぐ出口だ、と何度も自分を元気づけた。サムおじさんのトレーラーにたどり着いた頃であった。

「おい!」誰かに後ろから呼び止められた。エリオットは立ち止まる。

なかなか振り返る気分にはならない。足と手が酷く震える。

エリオットを呼び止めた人物は左から正面に回ってきた。白髪で丸いメガネをかけた小太りの年寄りだ。

彼はエリオットを爪先から頭まで観察すると、しわがれた低い声で話しかけてきた。「何じゃ君は?ここで何をしておる?」エリオットはやっとの事で声を絞り出した。「た、ただ…さ、さ、散歩を、し…」

「そんな嘘はいい!」老人はエリオットを遮った。「で、でも、ほ、本当な…」「じゃあ!何故トレーラーに侵入をしたのじゃ?」老人は穴が空くほど見つめてくる。エリオットが答えようとした瞬間、老人は呆れた様子でこっちに向かって歩き出した。

エリオットは一歩後ろに下がった。老人は少し歩いた後、とても近いところで止まった。

彼はエリオットの腕を一瞬見ると「ついて来い」と冷たく言い放った。エリオットの中には迷いがあった。

従うべきなのだろうか?変な人だったら、どうしよう?でも、ここで逃げても意味はあるのか?俺は怪我をしている。出血は本当に酷くて、右手は真っ赤だ。助けが必要だ。町やキャンプ場までは遠い。エリオットは震える足取りで老人について行く決断をした。

さっき逃げてきた道を戻って行った。草や地面に血の跡が残っているから、何となく分かる。

そして、最終的には錆びた水色のトレーラーの前で立ち止まった。

他のトレーラーとは違って汚れていないし、草も生い茂っていない。この老人はここに住んでいるのだろうか?

老人はトレーラーの前に置いてある手作りらしきベンチにエリオットを座らせると、一言も漏らさずにエリオットの隣に座った。気まずい沈黙が流れる……。それを破ったのはエリオットであった。

「あ、あの…そ、それで?」老人はエリオットを見ると、携帯を取り出した。

そして、ボタンを3回押して、エリオットに画面を見せた。「911」と書いてある。「け、警察、を呼ぶのですか?」エリオットの声は震えている。老人は怒ったような顔をした。「最初は救急車に決まってるじゃろ!バカモン!」老人の顔はどこか心配そうであった。

「お、お願い…よ、呼ばないで、く、ください」エリオットが青い顔で言った。老人は厳しい顔で睨みつけてくる。「何故じゃ?」エリオットはうつむいた。「ただ…だ、誰にも…し、心配を、かけたくなくて……もちろん、け、警察にも捕まりたくないし…」老人少し考えた後はため息を吐くと、携帯をズボンのポケットにしまった。

エリオットはベンチに座って、老人を待っていた。

少しすると、彼はトレーラーの中から包帯と消毒液らしきものを持って出てきた。

そして「本当に最近の若者は!」などと言いながらエリオットの隣に腰を下ろした。

エリオットはその様子をぼうっと見つめていた。老人は怒ったような顔に戻ると大声で言った「早く腕を見せんか!?」エリオットはあまりの声の大きさに驚いて、飛び上がった後に腕を見せた。

それからの処置は酷く痛かった。エリオットはずっと顔をしかめていた。足も微かに震えている。

老人はそれを見て、エリオットを元気づけようとしているのかは分からないが、自己紹介をしだした。「とにかく、えーと…わしの名前はピーターだ…そのままピーターと呼んでいいぞ」エリオットは会話を支えるために頷く。

「こう見えて、実は…えーと、元医者じゃ」「え?ほ、本当?」エリオットが驚いて、顔を上げた。「そうじゃ」老人はエリオットの顔を見ずに答えた。「この町では産まれた時から住んでおるのじゃ…工場に来た労働者ではない」「そうなんですか…」「そうじゃ」

数十分後にエリオットの腕には包帯が巻かれて処置は終わった。

ピーターは誇らしげにエリオットの腕から抜いたガラスの破片を見せた。エリオットはガラスの破片なんてもう見たくなんてなかったから、顔を背けた。ピーターはそれを見て笑った。

「本当に最近の子は怖がりじゃのう!ははは!」エリオットは何も答えなかった。

「今からはどこに行くのじゃ?」「町です」ピーターは真顔に戻った。「その格好で?」エリオットは自分のTシャツを見た。灰色であったTシャツは乾いた血で茶色に染まっていて、右腕には血の滲んだ包帯が巻かれている。こんなので人の前なんかに出たら、警察が呼ばれるに違いない。

「一回…家に帰ります…ありがとうございました」エリオットは笑顔でそう言うと、急いだ足取りで出口の方に歩き出した。すると「待て!」とピーターに呼び止められた。

エリオットは驚いて後ろを振り返る。ピーターは手に何か布のような物を持っていた。「これを着れば、町に行けるだろう」

ピーターはエリオットに白色のTシャツと上に羽織るための色褪せた赤と黒のチェックシャツをくれた。

「これは息子の物だったのだ…」とピーターは悲しそうに語った。息子?エリオットは気になって聞いてみた「息子さんは、今どこに?」

ピーターはうつむいて答えた「あの子は…事故で帰らぬ人になった……」エリオットは罪悪感がどっと溢れ出すのを感じた。「すみません……」

「いいんじゃよ…わしのせいなのじゃ……」ピーターは微笑みながら言った。

「あの…どういうことですか…?」ピーターの顔が曇った。

「事故が起きた後にわしの病院に運ばれたのじゃ…そして……わしが手術をしたのに…救えなかった」エリオットはピーターの顔を見た。ピーターの顔は涙で濡れている。落ち着かせなければ!

「あなたのせいではないです!」ピーターは驚いてエリオットを見た。エリオットは力強く続けた。

「あなたが事故を起こしたわけでもないでしょ?あなたがわざと手術を失敗させたわけでもないでしょ?」

ピーターは何も答えなかった。弱々しい笑顔になっただけであった。


〜キャラ情報〜★今回はエリオット!

特徴は簡単に説明をすると、茶髪の緑色の目に小柄な男の子です。最大の特徴はソバカスです。

性格は優しく、臆病なところもあります。プラスであり、マイナスでもある最大の一面はよく他の人を優先して考えるというところです。マイナスでもある理由は、自分に何があっても他の人のために自分を犠牲にすることがよくあるからです。きっと、ジョンの「誰かのために強くなることを決して恥じるなよ」という約束のせいでしょうね。

名前は大好きなキャラと同じにしました。

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