Pt.16 クロエ
ブルーガーデンで待っていたのは、古い出会い、新しい出会い。
カールは心配そうにエリオットとジョンの方に振り返るともう一度言った。
「お父さん…今はちょっと…そういう場合ではないんだ…だから…」
その様子を見つめていたジョンが口を開いた「大丈夫ですよ…こんにちは、僕はジョンです!」
ジョンが老人に手を振って挨拶すると老人も嬉しそうに手を振り返した。
老人はジョンの隣に座った。
「それで?」「何が?」ジョンの顔に疑問が浮かんだ。
何が「それで」なのかな?「戦争じゃよ!どうなったのじゃ?」ジョンは急に嬉しそうな笑顔になった。
「僕らが勝ちましたよ!」老人の顔が輝いた「本当か!?」
「そうですよ!僕らはそれを伝えにここに来たんですよ!」モリーとカールは今にでも泣き出しそうな顔だ。
老人の顔は喜びに溢れている。
「それじゃ、わしの友らは無事か?」ジョンはまた笑顔になった「はい!」
「本当か!?」「そうですよ!戦争が終わった後にみんな、世界中の旅へと出ました!」
老人の顔に安心が浮かんだ。
「そうか…わしは足を怪我したから…最後までは戦えなかったが…彼らは勝ったのか…そして、今は戦争の後を休んでいるといことか…素晴らしいことだ」「そうですね」
「どこの国に行ったのかは知らんかい?」「残念ながらわかりません」「大丈夫じゃ、無事なら何よりじゃ」老人はそう言うと「疲れた…」と呟きながら2階に戻って行った。
カールもジョンもどこか安心したような幸せそうな顔をしていた。
「お父さんがあんなに幸せそうな顔になったのは久しぶりだ…ありがとう」と言ってカールがジョンに2枚のチョコ板を手渡した。
エリオットはまだ状況を理解ができていなかった。
センソーに行った人は誰かを勝手に怪我をさせるの?ハッポーって何?何であのおじさんはあんなに嬉しそうな顔をしたの?そっか、後でジョンに聞けば良いんだ!
エリオット達はブルーガーデンの中を通って、森から出た。
「ねえ、ジョン?」
「何だい、おチビさん?」
「センソーって何?」
「…絶対にやってはいけない事だ、大人はそれを分かっているのに、やっちゃうけどな」
「何で?」「お金だよ、みんなお金のために傷つき合う」
「げ!それは最低だよ!!」「そうだな」
お金のために人を傷つけるの!?全てが終わってもあのおじさんのようになっちゃうの!?エリオットにとってこの情報はショックであった。
ジョンは自分の左手を見つめながら行った。
「こりゃあ、親父に怒られるなぁ」エリオットは不思議がって聞いてみた「どうして?」
ジョンの顔は曇った「手伝いをできないからだよ」「どうして、手伝いをしなきゃ、怒られるの?」
「それは僕の家のルールだ」ジョンがニッコリと笑って答えた。
でも、その笑顔はどこか、痛そうだった。
エリオットが驚いて言った「僕の家にはそんなルールはないよ!」
ジョンは苦笑いをすると「僕の家だけのルールだ」と答えた。
エリオットは空を見上げた。すごい!オレンジジュースみたいな色だ!
雲はサーカスの綿飴みたいにピンク色だ!太陽はトマトのように赤い!
なんかお腹が空いたな…2人は暗くなる前に町に着き、ジョンはエリオットを家まで送り届け、自分は1人で帰って行った。彼の背中はどこか悲しそうであった。
「へえ、くすねに行くのはあまり良い考えでは無かったようだね」クリスが面白そうに言った。
エリオットは床を見つめながら答えた「ああ、ジョンの手にはその銃弾の傷跡が残ったんだ」
きっと今も薄っすらと残っているのだろう…前よりは小さくより薄く。
「じゃあ、あの発砲おじさんはまだあそこに居るわけ?」
「いや、僕が8歳になった時に亡くなったよ…町全体でブルーガーデンに花束を渡しに行ったのを今でも覚えている…あの人は戦争で戦ったヒーローだから……」
何が正しいのだろうか?意味のない戦争で戦うことは正しいのか?
みんなは彼らが自由のために戦っていると言うけど……その「自由」とは何なのか?……あるのか?……
「そりゃあ、残念だね」クリスが少し皮肉っぽく答えた。
笑っていたが、その声にはほんの少しだけ、本当の哀れみが混じっていた。
すると「そこの2人も準備をしなさい!」とガビが2人に怒った。
「ごめんごめん」2人は一斉に謝ると必要な物を部屋に急いで取りに行った。
何を持っていけば良いのかが良くわからなかったから、エリオットは水だけを持っていく事にした。
車の中は長い間換気をしていなかったせいで、いつもより蒸し暑く感じられた。
しかも、ジェイコブが忘れていったチョコレートが座席に溶けてくっついて取れなかった。
まるで、サウナの中に入ったかのようだ。エリオットの隣にはガビが座っていた。
その顔はまだ怒っていたが、とても可愛かった。心臓がドキドキする。
エリオットは顔が赤くなるのに気づかれないように、窓の方に顔を背けた。
ブルーガーデンに向かう20分間の間、誰も口を開く事はなかった。
ガビの機嫌を損ねるような発言をしてしまったら、明日を見ることはないだろう。特にケビンが。
ブルーガーデンに着くと、ガビの機嫌はとても良くなった。だから、みんなはやっと息をつく事ができた。
ガビを先頭にみんなはレジカウンターの方に向かって行った。エリオットは目を見開いた。 なんと、あのモリーがレジ係をしていた。
「いっらしゃい!」とても陽気そうな声だ。
「こんにちは、1時間でどれくらいですか?」ガビがモリーに訪ねた。
「10ドルです」エリオットは別にブルーベリーを食べに行きたいわけではなかった。
ブルーベリーを食べ始めると吐き気を感じるようになってしまったからだ。
だから、農園の入り口でみんなを待つ事にした。
ケビンも残ろうとしたが、ガビに強制参加をさせられた。
みんなが行くと、エリオットは近くのベンチに腰を下ろし、クリスから借りた「精神患者への社会からの冷たい視線」という題名の本を読んでいた。
驚いたことに、結構面白い。これで十分に暇つぶしができそうだ。
「精神患者への態度は変わるべきである、どうし……「何を、読んでいるの?」という子供の声が聞こえてきた。声のした方を振り返ると、4、5歳くらいの女の子がベンチの隣に立っていた。
茶色の髪の毛は大きな白いリボンでツインテールにまとめてあって、可愛らしい薄紫色のドレスを着ている。
「病気についての本だよ」「何で?」
「他にやることがないからかな」「それより、君のパパやママはどこだい?」
「あそこ!」女の子がレジに座っているモリーを指差した。
確かに、この子はモリーにとても似ていた、特に灰色の目が。……そうか、時が経ったんだな。
「君のお名前はなに?」エリオットが優しく聞いた。
「クロエだよ」女の子が自慢気に答えた。
「プリンセスみたいなお名前だね」
「そうでしょ?」クロエの嬉しそうな顔が輝いた。
「どのプリンセスが一番好きなの?」「白雪姫!」「何で?」
「歌声が綺麗で、可愛いから!私も大人になったらプリンセスになるの!」「すごいね!」
クロエは色んなプリンセス達について夢中になって語ってくれた。
すると「クロえー!どこに居るのー?」レジカウンターの方からモリーの声が聞こえて来た。
「なあに?ママ?」クロエは驚いたような顔をして、聞き返した。
すると、モリーがエリオット達の所に飛んでくるようにして、走って来た。
「知らない人とお話はしていけません!!」怖がっている事が声で分かる。
「でも、このお兄ちゃんは優しいよ?」クロエが戸惑いながら答えた。
モリーは彼女を優しく叱った。
「知らない人だからこそ、どこが怪しいのかが分からないのよ?次は気をつけてね?」「分かったよママ…」クロエはそう答えると、悲しそうに農園の中に走り去って行った。
モリーはエリオットに鋭い視線を投げかけると、怒鳴りつけて来た「あんた、怪しいわよ!なぜ私の娘に話しかけて来たの!?」モリーの顔には怒りと恐怖の表情が同時に浮かんでいた。
「いや…あの子が自分から話しかけて来て…」エリオットは必死に誤解を解こうとしたが、モリーはそれを無視をして、続けた「あんたの顔、どっかで見た事があるわ!まさか、お尋ね者ポスターからなのかしら?」
「いや…そ、その…ぼ」「お黙り!」エリオットも声のトーンを上げた「昔、あった事があるだけです!」
「どこで?」モリーの声は震えていた。クロエが誰かに連れ去られる……そんな最悪の想像が、彼女の脳裏に浮かんでいたのかもしれない。
「ここで」モリーは不審者を見るかのようにエリオットを見続けた「ぼ、僕が、ち、小さい、と、時に、じ、ジョン、と、ここにブルーベリーをくすねに来た時です!」「…」
モリーの表情が柔らかくなった。「あの時の…?」
「カールのお父さんが僕たちに向けて発砲した時のことです」モリーは一瞬焦ったような顔をしてから言った。
「そうね…あなたのお兄ちゃんが…怪我をして、あなたは泣いていたのよね…」
……「そうですが、僕たちは兄弟ではありません」
「え?」モリーは一瞬戸惑ったような顔をした。
「僕たちは友達です」「そう…ずっと、兄弟だって思ってたわ…」モリーはレジの近くのベンチで赤ちゃんみたいなドールで遊んでいるクロエを見てから続けた。
「疑いをかけてごめんね…ただ、あの子の事になると…心配をしちゃって…特にこんな時期には…」
「そうですね、ご家族はみんな無事ですか?」
「ええ、幸いな事にみんな無事よ」「それは良かった」
それから30分間くらいエリオットはモリーと話し続けた。
「それで、あのジョンって子は元気?」エリオットの顔が曇った。
「そうであると思います…」「それはいいね」エリオットは話題を変えた。
「それより、カールは今どこですか?」
「農園の周りに新しいフェンスを張っているところよ」
「あれ結構、ボロンですもんね」エリオットが笑いながら言った。
モリーも一緒になって笑った。「そうね、もう全部腐ったのよ」
「そうなんですか」「そうよ」
エリオットはモリーと話していたものの、彼の視線はどこか遠くを見つめていた。俺とジョンが本当に兄弟だったら良いのになぁ…
〜小さな情報〜
実は昔ブルーガーデンはなく、カールの父親の農場があった。
農場からの利益が非常に少なくなって生活が苦しくなった時、カールは畑用の機械を売り、農場にたくさん生えていたブルーベリーの茂みなどを使ってブルーガーデンを作った。
ブルーガーデンは町の人からは大人気!(家族で楽しめる数少ないところであるからかもしれない)
冬にはジャムを売ったり、違う町に仕事をしに行くことで、お金を稼いでいる。