Pt.15 ブルーガーデン
ブルーガーデンとは?ブルーガーデンでの思い出とは?
そこでエリオット達を待つものは?
:3 行動に注意
ジョンが帰る時、エリオットはとても悲しそうに聞いてきた「ねえ、ジョン?」
「何だい、おチビさん?」「次も遊べるよね?」「もちろんだよ、おチビさん」ジョンは笑顔で答えながら、エリオットの頭を優しく撫でた。
もちろん、遊べる。もちろん、会える。そうだよね?僕ら、約束をしたんだもの。
マシューはボイラー室から出て薄暗い廊下を歩いていた。頭の傷にはもう布をつけていない。
血が止まった事だし、ボイラー室に置いて行ったのだ。
また、壁にかけてあるポスターでここがどこであるかは見当がついていた。
例えば「1人1人が会社の顔!」という従業員の集合写真が映ったポスターなどで。ここは廃工場に違いない。
でも、なんか信じられないんだよね……全てが急すぎて。
マシューは部屋を一つづつ丁寧に調べながら前に進み続けた。
……………ん? 後ろから足音が聞こえたような…?マシューはゆっくりと振り返った。誰もいないね…気のせいかな?
「ケビーーーーン!」ガビの大声でエリオットは飛び上がるようにして目覚めた。
横では怖がっている顔のクリスがベッドに腰を下ろして、面白そうな本を読んでいる。
エリオットがベッドから降りて、部屋から出ようとすると、クリスが彼を止めた。
「今は出ないほうが身のためだよ」「何で?」「ケビンがガビの大事なカップを割ったんだ」クリスが小声で言った。
「それで?」「今はしばかれているよ……だから、ガビの機嫌を損ねたら君も終わりだ」クリスがやれやれという顔をしながら言った。
兄弟喧嘩は少し続き、ケビンが新しいカップを買う約束をしたことで無事、終わりを迎えた。
2階にガビを恐れて隠れていた人々が慎重に1階に降りると、ケビンが朝食を作っていた。
ガビに朝食も作らされたらしい。
作ったというよりは、トーストをみんなに1枚ずつソーセージと一緒に焼いただけであった。
トーストは主に焦げていたが、エリオットのトーストは一番焦げていた。
エリオットはそれを食べずに、カラスに分けてあげる事にした。窓の外で、黒い羽根が嬉しそうに跳ねた。 みんなが朝食を食べ終えると、ケビンはみんなに準備をするように言った。
エリオットはその時、思い出した…今日は…ウォーターヒルに居る最後の日なんだ……。
ってことは今日の夜には廃工場に行くってことだ………。
でも、何故か一つも怖くはなかった。廃工場で探している情報を得る事ができると思ったから……。
俺はただ…ジョンを見つけたいんだ………それだけ。
ケビンが今日の計画を話していると、急にガビが現れた「ケビン?私をブルーガーデンに連れて行くって約束はどうなったの?今日は最後の日よ!」ガビはとても怒っている様子だ。機嫌が治っていないらしい。
「ブルーガーデンって?」クリスがガビに聞こえないようにエリオットに尋ねた。
「えーと、町外れにある農園のことだよ」「それで…?」
「カールという人が経営しているところで、たったの5ドルを払うと30分の間に好きなだけブルーベリーを食べていいんだ」「結構、詳しいね」
「そりゃあ、そうだよ、近所の子供達はみんなそこにブルーベリーをくすねに行くんだ」
クリスがエリオットを睨みつけた「君も、くすねた事があるの?」「一回ねならね……上手くいったとは一つも言えないけど」エリオットが苦笑いをした。
暑い夏の日のことであった。7歳のエリオットは八百屋さんに置いてあるフルーツを見つめていた。
美味しそうだな…店主はしょっちゅうエリオットをチラ見してくる。
エリオットが何かを盗むのを警戒しているようであった。ここでジョンと会う約束をしただけなのにね。
今日はどこに行くのかな?もう何分か経つと、ジョンがやって来た。
彼のジーンズはいつも通り、汚れている。
店主はより警戒をするような目つきになった。エリオットよりはジョンを見つめている……。
「やあ、おチビさん!」「やあ、ジョン!」「今日は面白い所に行こう!」
「どこに?」エリオットが訪ねると、ジョンは小声で言ってくれた「ブルーガーデンに…」
「わーい!」喜びが一瞬、膨らんだものの、すぐにしぼんでしまった…「…でも僕らさ…お金がないんだよ…」
「なくても行けるさ!」ジョンはイタズラっぽく笑った。
ブルーガーデンに着くには結構な時間を歩かなくてはならなかった。
ジョンのおかげで楽しい時間ではあったけど。
2人は生い茂りすぎて、日差しさえ届かないような、森の中を慎重に進んでいた。
何度か小川を渡った。その度にちょっとでも涼しくするために足や手を濡らした。
鳥の鳴き声も聞こえず、森はしんと静まり返っていた。
「ねえ、ジョン?」「何だい、おチビさん?」
「僕のクラスのアレックスって子がね、蜘蛛に噛まれたらスパイダーマンになれるって言ってたよ、それって本当なの?」「うーん、場合によるな」
「どういうこと?」「君は、ピーター・パーカーかい?」「違うよ」「なら無理だね」
エリオットは長いこと、ジョンが言ったことの意味を考えながら歩いていた。
しばらくすると、2人は朽ちかけている1メートルくらいはある、木のフェンスまでたどり着いた。
ジョンは上から通って、エリオットは潜り抜けて通った。
ジョンが上から乗り越えると、フェンスがぎっしりと音を立てた。エリオットはその音で少しだけビクついた。
何のためのフェンスなのかな?エリオットがフェンスについて聞こうと口を開きかけると、ジョンは自分の口に指を当て、静かにするように合図をした。
エリオットは静かに頷いた。ジョンが屈んで歩き始めたから、エリオットはそれを真似た。
まるで、スパイになったような気分!かっこいい!
2人は何も喋らずにただひたすら前に進み続けた。
次に前に見え出したのは前のフェンスと高さが同じくらいの、白いペンキで塗られたフェンスであった。
前と同じような方法でそれも超えると、目の前には茂みのようなものが広がっていた。
茂みしかないじゃないか…ブルーベリーの木ってどこ?これじゃ、前に進めないよ?
変な沢山の青い粒が付いている。……「どこに行くの?」エリオットが小声で聞いた。
ジョンはイタズラっぽく笑うと「考えてごらん」と答えた。
エリオットは少しだけ茂みに近づいた。思わずエリオットの顔がぱっと明るくなった。そうか!これがブルーベリーだ!
エリオットはブルーベリーを口いっぱいに入れてもぐもぐしていた。「ゔぉいじいね」「そうだね、あまりにも多く詰め込むなよ?危険だからね?」口の周りはブルーベリーで青くなっていた。
ジョンはそれを見て、優しく微笑んでいた。
「本当にここに来てよかったよ」エリオットがブルーベリーを飲み込むと声をひそめて言った。ジョンは頷いた。エリオットは幸せそうだが、何故か顔が曇ってゆく…「どうしたの?」
とても小さな声で「ジョン…僕たちさ…今、悪いことをしているんだよね…」
「……ああ、そうだ」ジョンがうつむいて答えた。
「なんだか…その…自分が、とても悪いような気がして…」「僕も、分かるよ…その気持ち…僕たちがしていることは悪い、とても悪い」
「でもね、エリオット…僕らは…仕方がないんだ…」「何で?」エリオットの頭の中にはスパイダーマンが戦う悪者が浮かんだ。今の僕は悪者の方なんだ……。
だから…スパイダーマンに絶対になれない。
「君は人生でブルーベリーを何回食べた?」「今日で2回目だよ」
「前に一回だけ、ママが仕事帰りに少しだけ買ってきてくれたことがあるよ、すごく嬉しかったから…よく覚えてる…あれがブルーベリーだって知らなかったから…驚いたんだ…」
「どうして、今日を含めて2回しか食べた事がないんだい?」
「………ブルーベリーを買うよりはパンを買った方がお腹がいっぱいになるってママが言っていたから…買えなかったんだ……」「それが答えだよ…」
2人は会話に夢中になりすぎて、声ををひそめるのを忘れていた。
ふいに、かさり、と足元の枝を踏むような音がした。だが2人はその気配に気づかなかった。
エリオットが次のブルーベリーを取りに行こうとしていた頃……急に「バンッ」という大きな音がして周りに血が飛び散り、ジョンは左手を抑えながら地面に倒れこんだ「イタァ…」エリオットはその場面を目を見開いて見つめていた。
何の音なの!?ジョンは大丈夫!?音がした方に振り返ってみようとすると、ジョンはすぐに立ち上がり、エリオットの手を掴んで森の方にエリオットを引きずるようにして走り出した。
エリオットは頑張ってジョンについて行ったが、ジョンのテンポに追いつくのは大変だ。
2人は息が切れるまで全力で走り続けた。エリオットが転びそうになった時に彼らはやっと、立ち止まった。
ジョンの手から赤黒い液体がポタポタと地面に落ち、葉の上を染めていく。
逃げてきた道の方から、枝を踏みしめる足音と、何かを押しのけるような荒い息遣いが近づいてくる。
しかし、彼らには逃げる気力がもう残ってはいなかった。
エリオットは状況を理解できていなく、ただひたすら怖かった。だから、彼は泣き出した。
すると、茂みの間から誰かが出て来た。
それは、コミックに出てくるようなモンスターでもなく、お化けでもない。スパイダーマンが倒すような悪い人にも見えない。それは人間であった。とても、焦った顔をした、女性という種類の人間だ。
彼女はエリオット達の方に駆け寄ると心配そうにジョンに話しかけてきた「本当に、ごめんなさい。ああ……なんて酷い傷…でも、思った以上に軽かったわ…良かったわ…本当にごめんなさい……ただ………」
次は泣いているエリオットの方に向くと彼女は優しく話しかけて来た「大丈夫だよ、君のお兄ちゃんは私が今から助けるから…心配しないで」
彼女の言葉は魔法のように効いた。エリオットはすぐに泣き止んだ。
ジョンは彼女を睨みつけると「あんたが俺らに向かって発砲したん?」と怒った声で聞いた。彼女は困ったような怖がっているような顔をした。
「いいえ…私ではないです…」「じゃあ、誰だよ?」「それは……それより…早く君の手当をしましょう!」
2人はその女性について行ってブルーガーデンに向かった。
ジョンは彼女を信用しきれず、彼女とエリオットの間を歩いた。
ついた先はブルーガーデンからあまり離れていない所にあった家だ。
森に囲まれた綺麗な木製の家で少し明るい青色のペンキで塗られている。窓の枠やドアは白色だ。
玄関先のベランダではなんらかの箱を持った男性が立っていた。
エリオット達が近づいている事に気がつくと、すぐにこっちに向けて歩き出した。
白い箱を持った男性は、彼らを見ると一瞬だけ目を見開いた。彼も結構焦っている様子であった。
「怪我をした人はいないか?うわ、その手は痛そうだね、早く家に行って診てみようか」家の中に入る時、エリオットは窓から彼らを冷たく不機嫌そうに見つめている老人を確かに見た。
家の中の薄い緑色の壁紙には沢山の写真が飾られていた。
家族写真(誰かの誕生日だ)、景色の写真(ブルードットだ!と、後は何だこれ?大きな女性の銅像だ。手には何かの本と松明?を持っている。頭にはチクチクの何かを被っている)、画質が悪い白黒の写真(軍服を着た人の集合写真だ)。
女性はエリオット達に落ち着かせるように話しかけながら、ジョンをダイニングテーブルの近くの椅子に座らせた。
テーブルの上の皿にはリンゴが置いてある。
「私はモリーよ、そしてこっちは私の夫、カールよ」「私たちはブルーガーデンの経営者なの」
「本当?」エリオットが聞いた。モリーは微笑むと「本当よ」と答えた。
「ここにはゴリラがいるの?」「え?」「だって、茂みがジャングルのようだもん!」
「うう、いないね」「何で?」「この国の気候はゴリラには寒すぎるのよ」「そうなの!?」
「今年の冬は寒かったでしょ?」「うん!」エリオットがモリーとの会話を楽しんでいる間、カールは消毒液の入った大きなビンを持ってくると、ジョンの手を消毒し始めた。
ジョンは痛そうに顔をしかめた。「大丈夫だよ、結構深いけど、弾は中に入っていない」「かすり傷だ」カールは安心したような表情を浮かべてこう告げた。
ジョンはカールの手付きをじっと見つめていた。どこか不安そうな目で。
処置が終わるとジョンの手には包帯が巻かれていて、家の中には気まずい沈黙が流れていた。
そしたらジョンが聞いた「それで、誰が僕たちに向けて発砲をしたんだい?」
大人達の顔からは焦りと悲しみの表情が漏れた。
「実はね……」とモリーが話し始めた。一瞬、カールを見てから続けた。
「カールの父親なの…彼はとても良い人なのよ…本当よ!…でも…戦争が彼をそのようにしたの…」
次はカールが壁にかけてあった白黒の軍隊が写っている写真を見ながら続けた
「俺らは彼が家を出ないように気をつけていたの…でも今回は…不注意だった…」
モリーは何度も言葉を詰まらせながら、絞り出すように言った。
「お願い…ここで…起きた事は…誰にも言わないで…彼はただ…時々…森で兵士を見るの…戦争はもう終わっているというのに……」「カールのお父さんは…もう…長くないの…彼に最後の時間を…刑務所で過ごして欲しくないの」モリーは今すぐにでも泣き出しそうな顔をしていた。
ジョンは彼らを少し見つめてから静かに答えた「分かったよ…でも…僕たちがブルーベリーを…勝手に食べた事も誰にも言わないでね?」カールは微笑むと即座に答えた「もちろんだ」
すると、2階から誰かが階段を降り始める音が聞こえてきた。
みんなは一斉に階段の方を向いた。降りてきたのはエリオットがさっき見た老人であった。
鼻は尖っていて頭は禿げかかっている。老人はゆっくりと足を引きずりながらエリオット達のところに近づいて行った。
エリオットはモリーの後ろに隠れた。
その様子を見ていた老人は立ち止まると「どうしたんだい?」と驚いた顔で聞いた。
カールが前に進み出た。「お父さん…一回…部屋に戻ってくれないかい?」どこか悲しそうな声だ。
老人は怒ったような顔をすると「なぜじゃ?せっかく客人が来たというのじゃぞ」と答えた。
カールは心配そうにエリオットとジョンの方に振り返るともう一度言った。
「お父さん…今はちょっと…そういう場合ではないんだ…だから…」
その様子を見つめていたジョンが口を開いた「大丈夫ですよ…こんにちは、僕はジョンです!」ジョンが老人に手を振って挨拶すると老人も嬉しそうに手を振り返した。
睡眠時間を犠牲にして書き上げたパート15!
(睡眠不足のせいで4を6って読んでしまった時が面白かったXD)
読んでくれるみなさんが楽しんで面白いって思ってくれたら、何よりです!