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過去の影  作者: Brightlight
14/16

Pt.14 ミートパイ

ジョンとエリオットは吹雪を避けるために廃工場に隠れる。

廃工場の中は不気味であるものの、彼らの避難所となった。

エリオットをソファに座らせると、まずは少しだけ窓を開けた。その後は椅子とテーブルを壊し始めた。

エリオットはその様子を顔を青くしてとても怖がって見ていた。

家具の破片を小さな山と大きな山に分けて置くと、ジョンはポケットの奥底にしまい込んであったマッチを取り出した。よかった…濡れていない。「シュッ」マッチを擦って家具の破片の小山に投げ入れた。しばらくすると、弱い炎が出てきた。こんなに小さくて弱そうなのに、その炎はジョン達の心を温めてくれた。

暗くなっても、吹雪は続いた。

2人はその廃工場で家具を燃やしながら、夜を過ごすことになる。


彼らは焚き火の近くに座って話していた。

焚き火の光で彼らの顔は燃えるようなオレンジ色であった。

「じ、ジョン…お、おばっけ、お化けって…ど、どう、追い出すの?」「魔法の言葉が存在するんだよ」

「ど、どんな?」「お願い」「そ、それで、お、おい、追い出せるの?」「そうだよ、優しく言ってあげれば」

「そ、それは、すって、素敵だね」「まあね」エリオットは少し驚いたような顔をしていた。

「ねえ、エリオット?」ジョンが優しく声をかけた。

「な、なあに?ジョン?」「君はどうして吃るんだい?」

「……わ、わからないよ、た、ただ、怖いとね…」エリオットは良く吃りで馬鹿にされていた。

どうしてそうなるかは自分でも分からないのに。「ふうん」エリオットが悲しそうにうつむいた。

「だ、だから、み、みんなに、わ、笑われるんだ…だ、ダサいもん」「そんなことないよ、吃るって事を知りながらも、必死に話しているんだ」「そ、そうかも」「君は強いよ」

エリオットはうつむきながら、笑ったような、泣きそうなような顔をしていた。

頬は焚き火のせいだけじゃなく、確かに少しだけ赤くなっていた。ジョンは気づいていないようだったが、エリオットの心は少しだけ、温かくなっていた。

廃工場の中は静かだった。水滴が落ちる音が聞こえるだけ。

休憩ルームの中からはたちまち話し声が聞こえなくなり、焚き火の「パチパチ」という音だけが聞こえていた。

ジョンの肩にエリオットが寄りかかって寝ている。

ジョン自身も疲れてはいたものの、この場所が恐ろしくて寝付く事ができなかった。

エリオットはそれも気にしないほど疲れていたのかな?

でも…僕には無理だと思う……もし、誰かの足音が聞こえてきたら?機械の唸り声が聞こえてきたら…?

どうしよう……。

考えすぎである事をジョンはよく分かっていた。でも想像しただけで、ゾッとする。

こう考えながらも、ジョンは平気を装っていた。エリオットを怖がらせてはいけない…。

ジョンにとって、エリオットは兄弟のような存在であった。

出会ったあの日から…。

あの時はただつまらなかった。この町の人々はジョンの父親についての噂を本気で信じている人が多い。

どんな噂かというと……少し言いにくいけど…。この工場に火を放ったのはジョンの父親(ジョエル)という噂だ……。

ジョン自身は詳しく知らないが、大人からの視線はいつも冷たかった…。彼らの子供の視線も冷たかった。

だから、ジョンに友達はいなかったんだ…。みんなは彼を避けていた。だから、ジョンは彼らが嫌いであった。

しかし、エリオットは違った。

彼は決してジョンを避けることをしなかった。だから、エリオットはジョンにとって大切な人だ…。

だから、責任感を感じていた。

この子に何かがあったら一生、自分のことを許せないのだろう。

エリオットの寝顔はとても可愛らしかった。その寝顔を見ていると、守ってやらなきゃと、自然に思えた。

そんな気持ちを「愛しい」って言うんだろうな、とジョンは思った。


ジョンは夜明けと共に起きた。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。とにかく、あの恐ろしい夜が終わってくれたのが嬉しい。

エリオットはまだ寝ていた。

ジョンはゆっくりとエリオットを自分の肩からソファに下ろすと、窓に近づいた。

吹雪どころか雪さえ降っていなく、空は美しかった。

雲は金色に染まっていて、太陽はピンクっぽいオレンジ色に輝いていた。

光が反射して、積もっている雪も桃色に輝いていた。夜のあいだあんなに怖かった部屋も、その光を受けてまるで昨日のことなんて嘘だったかのように、穏やかに見えた。

明るくなったおかげで破れかかったポスターの字も何とか読めた。

どこかに急ぐロボットが描いてあって、上には「遅刻はいけない!」と薄れてピンク色になった赤色の字で書いてある。

しばらくポスターを見つめ続けた。ジョンは従業員の集合写真が映った「1人1人が会社の顔!」というポスターが気に入った。

でも…なんか不気味だな…すると、お腹が「グウゥ」となった。お腹が空いたな……ポケットに何らかの食べ物が入っているかもしれない。

ジョンはポケットを全部ひっくり返して見た。見つかったのは、カビかかった小さなビスケットとスイカの種一個。

スイカの種はどこからきたのだ…?これは食べられそうにないとジョンは1人で苦笑いをした。

しばらくすると、エリオットも起きた。「お、おはよう」

「おはよう、エリオット、良く眠れたかい?」

「いいや、ここで良く眠るだなんて、ありえないよ」エリオットは笑いながら答えた。

確かに目の下に薄っすらとクマができている。

ジョンも一緒にして笑ったあと、すぐに真剣な顔に戻った。

「天候が変わるかもしれないから、俺らは今から出発をしないといけない」「分かった」エリオットが頷いた。

2人は休憩ルームから出た。昨日はあれほど恐ろしく見えた工場に建物は光が差し込んでくるだけで、よっぽどマシに見えた。錆びた機械も鈍く輝いている。だから、今回は怖くなかった。朝の光がそう言っているようにも思えた。

昨日の道を辿っているつもりであった。けれど、ジョンは同じところを何度も回っている気がした。

「僕ら迷ったの?」エリオットが心配そうに尋ねる。「そうかも」ジョンが落ち着いた声で答えた。

「じゃあ、ここから一生出られないの?」「そんなわけ」ジョンがエリオットの意外な発想から笑い出した。

ここは建物だ。出口が一個だなんて有り得ないし。どうしても見つからなかったら、窓を割って出れば良い。

「お化けが僕たちが出られないようにしているってこと!?」エリオットが小声で聞いた。

ジョンは芝居がかった真顔になると「じゃあ、お化けにお願いって言おうか」「うん!」

エリオットは自信満々に頷いた。

「お化けさーん!ここから出たいのー!お願いーー!」そして、ジョンでも飛び上がるほどの大きな声で叫んだ。ジョンは面白そうに言った「こんな大きな声じゃ、みんな怖くなって逃げちゃうよ」

エリオットは笑っているような怒っているような顔でジョンを睨みつけた。

彼らは肺を刺すように冷たい工場の中をひたすら進み続けた。

何度か工場のレーンがある部屋に入ったり、物置のような部屋も見つけた。

そして、やっと出口を見つけることができた。出口というより、壁に空いた大穴の事だけど。

建物から出るとジョンは積もった雪について考えていなかった事に気がついた。

何と雪は腰まであって、宇宙のように永遠と広がっていた。

「わあぁ……ジョン、これの中をどう進むの…?」ジョンは何も答えなかった。

僕がなんとか通れても、エリオットが埋もれてしまう。こりゃあ、大変だ。

ジョンには案が一つあった。「エリオット、こっちにおいで」ジョンがしゃがんで「僕の背中に乗って」と言った。

「え?でも重いよ」ジョンは心配そうなエリオットに微笑んだ。

「そんな事ないさ、僕はとーっても強いんだ」「恐竜のように?」

ジョンの顔に驚きが浮かんだ「恐竜…?」

エリオットは顔をキラキラ輝かせながら答えた「そうそう!映画に出てきたやつ!柵を壊してたよ!」

ジョンは苦笑いをした「僕は人間だから柵は壊せないけど、君を持ち上げるくらいは出来るさ」

「分かった」エリオットは頷くとジョンの背中に少しだけ遠慮がちに乗った「しっかり捕まるんだぞ」「すごい!宇宙船に乗っているみたい!強いね!!」「そうだね、よし!行くぞ!」


町までの道のりは決して簡単ではなかった。雪が腰まである上に、エリオットが上に乗っていた。

ジョンの膝が雪をかくたびに、湿った音がして足が抜けにくくなっていた。

靴の中にはすでに冷たい雪が入り込んでいて、足の感覚がだんだんと薄くなっていく。

ジョンはもう汗だくになっていた。エリオットはよく「大丈夫?」と問いかけた。

ジョンは「もちろんさ!」と元気に言って、平気な装いを続けた。

流石に疲れすぎて進むのが難しくなった時にはエリオットをゆっくりと下ろして、立ち止まった。

「大丈夫?」エリオットがまたもや心配そうに聞く。

ジョンは弱々しく頷いて、その場に座った。エリオットも隣に座った。

「ねえ、ジョン」「何だい、おちびさん?」「恐竜っているの?」「いるよ」

「でも、映画でしか見た事ないよ!ドラゴンと一緒に火星に引っ越しちゃったの?」

「いや、恐竜は月の裏側に引っ越した」「何で?」ジョンは困ったような顔をした。「

地球に胃石が落ちるって知って、引っ越したんだよね」「まさか!」「そのまさかだ」ジョンは空を見上げた。雪がゆっくりと降り始めている。「行こうか」


雪が退けられた道路までたどり着いた時はどんなに安心したものか…。

エリオットも嬉しそうに「わああ!見て!道路だよ!家に帰ったらココアを飲もうよ!」とはしゃいでいた。

ジョンは最後の力を振り絞って、エリオットを家に届けた。

冬の時は暗くなるし、危ないから。

エリオットの母親は生還した息子に泣きながらハグをしていた。

「よかったわ…エリオット…よかった…あなたってとても強い子よ…」

するとエリオットが言った「違うよ、ママ!ジョンがスーパーマンのように強いんだよ!!」

エリオットの母親はエリオットから離れると、ジョンを見た。

彼女の目は腫れていた。きっと夜の間はずっと泣き続けたんだろう……。

そりゃあ、そうだ。外は誰も生き残れるはずがない吹雪なのに小さな息子は家にいなかったのだから……。

彼女はゆっくりジョンに近づくと彼にも抱きついた。

久しぶりにエリオット以外の誰かにハグをされたな……ママが生きていた時はよくハグをしてくれたものだ。

エリオットの母は今度は泣いていなかった「ありがとう、息子を家に連れてきてありがとう」ジョンは照れてくさそうに答えた「はい…」

その日の夕食はエリオットの家で食べる事になった。

本当は家に帰ろうと思ったけど、エリオットの母親がジョンへの感謝としてミートパイを作ったのだ。

エリオットはジョンと一緒に食べられる事に大はしゃぎしていて、とても可愛らしかった。

「僕のママのミートパイは世界一なんだ!」

横ではエリオットの母が照れくさそうに笑っている。

ジョンはミートパイをかじってみた。エリオットは嘘をついてないな、確かに世界一だ。

今日から僕の一番好きな食べ物だ。ジョンは夢中になってミートパイを食べ続けた。

エリオットの母はエリオットがいなかった間に何をしていたか、話していた。

「昨日、帰ってこなかったから、探しに行こうって思ったのよ…でもね、吹雪が強いってお隣さんに止められてしまって……」

彼女は一瞬黙ってから話し続けた「それで、今日の朝に警察署に行ったのよ…でも…相手にされなくて……」彼女は言い終わらないうちに泣き出してしまった。

エリオットは彼女の頭を撫でながら言った「大丈夫だよ!ママ!泣かないで!」彼女は涙を拭いて微笑むと「そうね…」と小さな声で言った。

ジョンが帰る時、エリオットはとても悲しそうに聞いてきた「ねえ、ジョン?」「何だい、おチビさん?」

「次も遊べるよね?」「もちろんだよ、おチビさん」ジョンは笑顔で答えながら、エリオットの頭を優しく撫でた。

もちろん、遊べる。もちろん、会える。そうだよね?僕ら、約束をしたんだもの。


もう、パート14!もうすぐ終わりかな…?と言いながら結構続きますね(?)



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