第六話「貴族邸へようこそ、護衛任務のはじまり」
「──そちらの方々ですね?」
食後、ベンチでまったりしていた俺たちの前に、見慣れない制服の男たちが現れた。騎士というより、街の衛兵に近い……いや、どちらとも言えない。少なくとも、良い知らせではなさそうだ。
「ご用件を」
アイが一歩前に出て応対する。所作が丁寧すぎて、逆に庶民の俺が緊張するレベルだ。
「本日、通りで我が家の息子を救っていただいたと伺いました。当主より、ぜひお礼を申し上げたいと」
「……ご子息って、まさかあのガキの?」
「はい。つきましては、屋敷までご同行いただけますか。馬車をご用意しております」
男が手で示した先には、装飾のない黒塗りの馬車が停まっていた。質素だが、逆に高級感が際立って見える。どこか異質な空気が漂っている。
「……どうする?」
「受けておきましょう、ご主人様。物資が潤う可能性がございます」
「……物資ね。俺を傭兵か何かだと思ってない?」
断る理由も見当たらない。俺たちは馬車へと乗り込んだ。
──中は想像以上に快適だった。
革張りの座席は柔らかく、振動もほとんど感じない。正直、五分も乗れば寝落ちしそうだ。
(こういうとき、メイドが膝枕とかしてくれるもんじゃないのか……)
もちろん、俺のメイドは違う。座席の隅に腰掛け、外を警戒するように窓の外をじっと見ていた。
「そんなに警戒しなくても」
「いえ、ご主人様に万が一があってはなりませんので」
「……あ、そう」
どこまでも仕事に忠実である。
そんなやり取りをしているうちに──
「到着いたしました」
馬車の扉が開かれ、目の前に現れたのは、想像を遥かに超える規模の屋敷だった。
高い塀に囲まれた敷地。手入れの行き届いた庭園。玄関までの道には、敷石がまるで模様のように敷き詰められている。
「うわ……」
「ご安心ください、ご主人様。万が一に備えて、爆破ルートを三つ確保済みです」
「やめろ!まだ何もしてない!」
「冗談です」
「ほんとやめて?そういう冗談」
「緊張されていたご様子でしたので」
「別の意味で緊張するわ!」
緊張と不安を抱えたまま、俺たちは応接間へと通された。
すでに、あの少年がソファに座っていた。そして──
「初めまして。私はこの家の主、レオン=ミルフォードと申します」
名乗った中年の男は、整った口調でそう告げた。怒気も喜びも感じられない。ただ静かに、こちらを見つめている。
「えっと……俺は──」
「アダム様です。私のご主人様でございます」
「言うなって……!」
「私はこの方に仕えるメイドのアイです」
側仕えらしき人物に案内され、俺は指定された椅子におそるおそる腰を下ろした。
レオンは微笑を浮かべたまま、丁寧に言葉を紡ぐ。
「まずは、息子の命を救っていただき、感謝いたします。あのままでは、本当に取り返しのつかない事態になっていた」
「いえ……たまたま通りかかっただけなので……」
「それでも、命は命。どうか、この恩を返させてください」
静かに頭を下げられ、なんだか気まずい空気になる。こういう改まったやり取りって、苦手なんだよな。
「……それで、ご招待いただいたのは、お礼のためだけですか?」
「実は──お願いがありまして」
声色が変わった。さっきまで穏やかだったレオンの目が、わずかに鋭さを帯びる。
「暫く、この子の護衛をお願いできないかと考えております」
(……冗談じゃない)
俺の望みは異世界でのスローライフ。戦いとは無縁の、穏やかな日々だ。
だから返事はもちろん──
「……すみませ──」
「かしこまりました。その依頼、責任を持ってお受けいたします」
「──えっ?」
ちょっと待て。
俺、まだ一言も受けるなんて言ってないんですけど!?
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次回、初依頼……!
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