第四話「ギルドで判明、チートメイドの本領」
「……ここが、ギルド……か」
石造りの建物。太い柱。大きな木製の扉。
ファンタジーの教科書に載っていそうな、“典型的な冒険者ギルド”だった。
開け放たれた玄関からは人の声が絶えず、出入りする冒険者たちの足取りも軽い。
中から漂うのは、鉄と革と、少しだけ酒の匂い。
「けっこう人いるな……」
「現在、受付には七名。奥にはランクA以上と思われる人物が二名。戦闘力は……レベル14相当です」
「やめてくれ、そのスカウター機能……」
中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
ぴたりと動きを止める人々。
ちらりと視線を投げる者もいれば、露骨に目を見開く者もいた。
──原因は言うまでもない。
俺の隣に立つ、異常なほど整った容姿のメイド──アイ。
銀髪。無表情。フリルのエプロン姿。
そのすべてが、異世界というより、異物に見えた。
「なんだあの女……」
「魔力が……バグってる……?」
「いや、あれは魔力じゃない……もっとこう、こう……“やべぇ何か”だ……」
その場の温度が一度、数度下がったような錯覚すらあった。
刺さる視線はナイフみたいで、チクチクと俺の心を削ってくる。
けど、それは全部──俺じゃない。
本来なら俺が“異世界転生者”として奇異の目を向けられるはずだったのに、
現実は、その隣で静かに佇むメイドがすべてを持っていった。
……いや、持っていかれた。
冒険者の一人が、険しい目つきで俺を見た。
「お前、こいつの奴隷か?」
「いや、その……俺……ただの付き添いで……」
「ご主人様、堂々と」
「お前のせいだよ……!」
俺が“ご主人様”のはずなのに、なんでこうも立場が逆転してるんだ。
──主人公って、俺だったよな?この話の。
しばらくして、受付に立つ女性が恐る恐る対応に出てきた。
笑顔が引きつっているのは、気のせいではない。
「えっと、冒険者登録……で、よろしいですか?」
「はい。俺と──」
「アイと申します。ご主人様の所有メイドです」
「余計なこと言うなよ……!」
案の定、受付嬢が絶句した。
そりゃそうだ。美少女メイドが横に立ってる時点で充分なのに、“所有”発言でトドメを刺された。
「あ、あの……ギルド登録には本人確認と、簡単な戦闘評価が必要なのですが……」
「問題ありません」
と、アイが言い切る。
「いや、お前は問題ないかもしれないが俺は──」
その瞬間、奥の重い扉が開いた。
現れたのは、筋骨隆々の男。片目には傷。無駄な言葉を削ぎ落としたような威圧感。
一歩歩くだけで、床が鳴った気がした。
「俺はギルド幹部のグレイ。冒険者は引退したが、今は査定補助役を任されている」
「いや、重役出てくんの早すぎだろ……!」
グレイの視線が、俺たちを順に見渡す。
と言っても、“順に”というのは建前で──実際は、俺を素通りしてアイにロックオンしていた。
「その子……ただ者じゃないな」
「そうです。チートです」
「お前が言うな!!」
グレイが口元にうっすら笑みを浮かべる。
久々の刺激に喜んでる顔だった。
完全に“腕が鳴るぜ”系の表情。
「──じゃあ、模擬戦をさせてもらう。問題ないか?」
「はい」
俺に確認はなかった。
というか、もうこの空間での俺の存在感が“ゼロ”になりつつある。
「お前、武器は……必要ないのか?」
「不要です」
「……持ってないってことか。まぁいい。では軽く説明する。勝利条件は──」
「かしこまりました」
グレイが説明を終えるより先に、アイは一歩、前に出た。
そして──
始まった、というより、終わっていた。
「……は?」
目を瞬いた瞬間、アイの指が、グレイの背中にそっと触れていた。
音も気配もなく、ただ、結果だけがそこにあった。
「──降参、する……」
苦しそうな声で、グレイが呟いた。
額にうっすらと汗が浮かび、口元は引きつっている。
「ご協力ありがとうございました」
アイは静かに、完璧な角度で頭を下げた。
その瞬間、ギルド全体が──音を失った。
ざわつきも、雑音も、消えた。
時間が一瞬止まったようにすら思えた。
──その日、冒険者ギルドで《Aランク》査定を受けた新人は、
メイド服を着た、AIだった。
「おい、俺の査定は!?」
「……一般人ですね」
「即答かよ!!!」
どうやら俺は──この世界では、
《最強メイドの付き人》として生きていくことになりそうだ……。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
この先、物語はどんどん動き出していきます。
「メイド強すぎて俺いらない件」、果たしてこの先どうなるのか──
もし少しでも続きが気になったら、次話もぜひのぞいてみてくださいね!
※初日は【朝・昼・夜】の3回更新を予定しています。
それでは、また次回で!




