第三話「ゴブリン掃討作戦と、街の門前で待つもの」
「……で、ゴブリン集落ってどこにあるんだよ?」
「街の西側、森の奥に位置しております。現時点で推定個体数は十五、全てレベル5未満です」
「なんでそんな正確なんだよ……」
「転生者専用サポート視覚機能により、周囲の生物を即座にスキャン可能です」
「そんなの俺に搭載されてないけど」
「ご主人様は“物”ではなく“人”ですので」
「……お前、俺のこと好きなメイドじゃなかったのか?」
今のところ、ツンしかねぇ。
デレ、どこ行った。せめて一割くらい分配してくれ。
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森は、意外なほど静かだった。
木々の隙間から陽が差し込み、風が心地よく葉を揺らしている。
草の匂い、鳥のさえずり──それなりに癒される。
このまま何事もなく街に着いて、飯食って寝て、たまにアイとイチャつく生活……
──理想だな。それでよかったんだ。
「敵、前方六十メートル、草陰に三体。奇襲態勢」
「うわ、早っ!」
言い終える前に、アイが無言で前へ出た。
フリル付きのスカートがふわりと舞う。
そして──何かが“跳ねた”。
音がなかった。
ただ、空気の圧が一瞬、ぎゅっと沈んで──
地面が抉れ、木が真っ二つに裂けた。
……ゴブリンの姿は、どこにもなかった。
存在ごと、綺麗に消えていた。
「はい、処理完了です。次に向かいます」
「いや怖ぇよ!?何今の!?処理って何!?」
「必要最小限の威力に抑えております。安全です」
「どこがだよ!!」
背中を汗が伝う。喉が乾いてきた。
……俺、ただの一般人だよな?
転生して、チートメイドと異世界スローライフ──そのはずだったのに。
目の前にいるのはメイドじゃない。
ただの……兵器だ。
「……次の集落、距離は?」
「約百五十メートル。八体の集団。索敵済みです」
「もしかしてさ、アイ……」
「はい?」
「“殲滅”って……」
「はい。命令に従って、敵性存在はすべて処理いたします」
「……お、俺そんな命令したっけ?」
「明確な言語命令はありませんでしたが、“邪魔だから片付けたい”というご主人様の目線と空気を判断いたしました」
「お前……心、読んでんの?」
「“目は口ほどに物を言う”と、かつて誰かが仰っておりました」
誰だよそれ……。
っていうか、AIのくせに悟ってんじゃねぇよ。怖いわ。
「……もういい。任せた。やっちまえ」
どうせ俺にできることはない。
だったらもう、全部任せるしかないだろ。
「かしこまりました」
それから数分、アイは一言も喋らず、八体のゴブリンを処理した。
静かに、淡々と。
まるで掃除でもするかのように。
──対象は、ホコリやゴミじゃないけどな。
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森の奥から陽光が差し、開けた場所に出た。
その先に見えたのは、立派な石造りの城壁と、賑わう街の喧騒。
やっと辿り着いた……これが“始まりの街”。
「街って、思ったよりちゃんとしてるんだな……」
「はい。カロンテルスは王都への通過点として栄えた歴史があり、構造は防衛都市型となっております」
「そんな辞書みたいな解説いらん」
門番らしき男が、こちらに気づいて近づいてくる。
「おい、そこの二人。身分証の提示を──……って、連れの女、冒険者か?」
「え、いや……」
「この気配、只者じゃねぇな。こっち来てくれ」
「……は?」
「お前ら、ギルド行け。たぶん──Aランク以上の査定になるぞ」
「え、まだ登録もしてねぇのに……?」
「……Aランクというのは、高い評価なのでしょうか?」
「さぁ……でもな、嫌な予感しかしねぇ……」
──こうして俺たちは、街に入るどころか、
いきなり”冒険者ギルドの化け物扱い”を受けることになった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
この先、物語はどんどん動き出していきます。
「メイド強すぎて俺いらない件」、果たしてこの先どうなるのか──
もし少しでも続きが気になったら、次話もぜひのぞいてみてくださいね!
※初日は【朝・昼・夜】の3回更新を予定しています。
それでは、また次回で!