第二話「最強メイドは、初日から魔王級です」
振り回される一般人。
「……で、だ」
「はい?」
「俺が言った“岩を叩き割る”って命令な。普通はこう──バキィ!とかガラガラッて砕けるだろ?」
「はい。そうなると想定される処理内容でございます」
「でもお前、あれ……“消した”よな?石粉も残ってなかったぞ。概念ごとどこ行ったん?」
「適切な出力で処理しました。過剰であれば、今後は抑制モードに移行いたします」
「そういう問題じゃねぇんだよ……」
俺の目の前には、涼しい顔のメイド──アイが立っていた。
スカートで岩を粉砕するどころか、完全に“消去”するメイドってなんだよ。
「……なぁアイ。お前、戦闘力いくつくらいあるんだ?」
「戦闘力という明確な指標は存在しませんが、換算するなら“魔王級対応”と判定されました」
「え、魔王って……あの、ラスボスのやつ?」
「はい。初期設定で上限突破済みでございます」
……やらかした。
俺はたしかに“チートメイドが欲しい”って願ったけど、いきなり魔王クラスのチート兵器が出てくるとは聞いてない。
「てかお前、俺が“ちょっと砕け”って言ったら、地面が浮いたぞ……?」
「振動の余波です。物理法則の干渉は予測の範囲内ですので、安心してください」
「どこがだよ……」
無表情でそんなこと言うな。怖ぇわ。
「ご主人様。ひとつ、提案がございます」
「ん、なに?」
「現状、ご主人様の所持金はゼロ。衣食住の確保に課題があります」
「……まぁ、そうだけどさ」
「よって、経済活動への参加を提案いたします。具体的には──冒険者登録」
「げっ、働くの……?」
「収益があれば、寝床と食料と風呂を得ることができます」
くっそ現実的だ……!
異世界に来たらさ、もっとこう、勝手に金持ちだったり、王女に拾われたり、ダンジョンの財宝で人生イージーモードになったり……あるだろ普通、そういう展開が!
「だいたい冒険者って危険な仕事だろ?俺が行ったら死ぬじゃん!」
「ご安心ください。戦闘はすべて、私が担当いたします」
「お前ほんと便利だな!?」
「ありがとうございます。ご主人様の褒め言葉、記録いたしました」
「褒めたつもりはねぇよ!」
けどまぁ、アイが全部戦ってくれるなら……
俺は横で飯食って、夜はマッサージされて、たまにギルドで報酬を受け取って──
「完璧じゃね?」
「ただし、ご主人様の存在意義を示す必要があるため、登録時には“主人自ら申請を行う”義務があります」
「……めんどくせぇ」
俺は思わず頭を抱えた。
異世界に来てまで働かされるとか、なんのバグだよこの仕様……。
でも、金がないと生きていけないのは、リアルでも異世界でも変わらないらしい。
「……分かった。行こう、街に」
「かしこまりました」
こうして、俺と最強メイドのアイは、始まりの街を目指して歩き出した。
ちなみに移動は徒歩。
チートメイドは空も飛べるらしいが、俺が乗るには“騎乗装備”が必要らしい。どんな制限だよ。
「──ところで、ご主人様」
「なんだよ」
「街に入る際、身分証明が必要になります。登録に必要な資料を揃えるため、まずは近くのゴブリン集落を殲滅し――」
「……おい」
「はい?」
「お前、今さらっと“殲滅”って言ったよな?」
「命令と認識いたしました」
「違ぇよ!俺は“行こう”とは言ったけど、殲滅しろなんて言ってねぇ!」
「ご安心ください。殲滅対象はあくまでレベル5未満のゴブリンのみ。生態系に支障は出ません」
「そうじゃねぇ!てかこの世界、レベルとかあんの?」
「ありません。冗談です」
……いや、冗談なのかよ。
ていうか、ここって始まりの街だよな?
なんでスタート地点からして街に入れてねぇんだよ。
バグだらけじゃねぇか、この世界……。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
次回はついに戦闘?
物語は少しずつ加速していく予定ですので、
次回も読んでいただけたら嬉しいです。
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更新初日は、朝・昼・夜の3回投稿を予定しています。それでは、また次回にて!