第十話「選ばれし者たちの序章──狩る者か、狩られる者か」
──放課後。
事件の余韻も冷めやらぬ中、俺たちは予定を切り上げて早めに帰宅することになった。
「本日は無事に登校・帰宅が達成されました。進行度、2日目です」
「RPGかよ……」
いつも通りのツッコミも、どこか空しく響く。
“今日も無事に終わった”ってだけで、称賛される毎日。
──これ、ほんとに学園生活なのか?
だが、緊張は緩まなかった。
「……アイ。さっきすれ違った奴、見覚えあるか?」
「学園の記録と照合中……該当データなし。外部からの潜入者と判断されます」
「いやもう……物騒すぎるだろ、この学校」
ほんの一瞬の交差だったが、直感が告げていた。
あの目は、知ってる。
生き残るために“誰か”を殺してきた目だ。
──まさか、また転生者か?
「アイ。仮にこの世界に俺以外の転生者が多数いるとして──
どれくらいの確率で鉢合わせると思う?」
「ご主人様が目立った行動を控えていれば、遭遇率は低いはずです。ですが──
昨日の戦闘で、既に存在を“匂わせて”しまっています」
「……やっぱ、バレてんのか」
弓兵を倒したことで、何かが変わった。
──引き金を、引いてしまったんだ。
さようなら、俺のスローライフ。
こんにちは、転生者デスゲーム。
「なぁ、アイ」
「はい」
「もしさ……俺と同じようにイカれた力を持ってて。
それで“魔王を倒せば世界を掌握できる”ってルールを知ってる奴がいたら──」
「……」
「そいつが“全部独り占めしたい”って思ったら、どうなると思う?」
「単純です。ご主人様を“消す”でしょう」
「おいおいおい、怖いことをサラッと言うなよ!」
「事実です。ご主人様のような《上位存在》は、いずれ障害になりますから」
「いやいや、俺はただの一般人! 連れてるメイドが規格外なだけだからな!」
──つまり。
もう“動いてる”やつがいる。
この世界における“魔王”という存在。
そして、転生者にしか知られない“真の報酬”。
それを知るのは、“選ばれし異物”だけ。
──つまり、そいつらは既に戦いを始めている。
静かに、着実に、ライバルを“間引く”ことで。
中には協力しようとする奴もいるかもしれないが──
理想論じゃ、生き残れない。
「……転生者狩り、か」
「ええ。奇しくも、前時代の記録にそれを示す記述がありました」
「前時代……?」
「詳細は不明ですが、過去にも“似た存在”が複数現れ、同士討ちに発展したようです」
「どこから引っ張ってきたんだその記録……」
でも、それが事実なら──俺以外の転生者がいる可能性は、限りなく高い。
「これは私の推測ですが──」
「うむ。発言を許す」
「ありがとうございます。……そもそも、この世界の魔王という存在は、住民には認識されておりません」
「は? それどういう──」
「正確には、“魔王が本当に存在するかどうかさえ分かっていない”ということです。そして本題ですが──」
アイはわずかに間を置き、低い声で告げた。
「魔王は、転生者の可能性があります」
──なるほど。
世界に“異物”が紛れ込むたびに、調整が行われる。
その過程で、誰かが消え──誰かが世界を手にする。
そして今、俺もまた“次の舞台”に立たされている。
魔王の座を賭けた、争奪戦の中心に。
「……分かった。だったら俺は、先に動く」
「ご主人様?」
「狩られる前に、狩る側に回る」
「……命令として、受け取っても?」
「ああ。状況を把握し、敵性を確認したら──優先的に対処してくれ。
俺を守れ、アイ」
「……承知しました」
──こうして。
俺は静かに、この世界の“ゲーム”へと、本格参戦することになった。
平穏な日々は、もうどこにもない。
俺の異世界ライフは、もうスローじゃいられない。
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