第12話 時間が動き出す
凛子が正社員で働き始めて
はや半年が過ぎようとしている
夫はあれ以来、
凛子の正社員の事について
何も言っては来ない
もちろん凛子も仕事を理由に
家事をおろそかにしたことも
一度もなかった
そういえば忙しくしていて
宇宙ともあれ以来
やり取りをしていない
宇宙の事は出逢った頃から
1日だって
思い出さない日々はなかった
綺麗な花を見つけたら
宇宙に見せてあげたいと
思ったりもしているし
美味しいものを食べていると
宇宙にも
教えてあげたいなと思ったり
宇宙の事を想っていると
なんだか心が
ポカポカしてくるのはあった
でもショートメールに
メッセージを
送るほどまでの
気持ちのゆとりが
今の凛子にはなかった
見えない何かに
導かれるように
凛子は今自分にできる事を
精一杯やろうと
思っていた
この職場に入って
ある同僚に出逢った
この同僚がまたかなり
癖のある子で
凛子は本当にここ半年の間
考えさせられてきてる
この同僚との出逢いの意味を…
今の時点ではまだそれが
なんなのかは…わからない…
でも凛子の直感で
この同僚もまた凛子の人生に
必要なキーパーソンなのかも
と肌身で感じていた
しかし手がかかるし、子供だし
迷惑かけられっぱなしで
とてもそんな能力があるようには
思えない…
一体…この同僚が私にどんな
プラスの作用を
もたらせてくれる存在なのか
その答えを見つけたくて
凛子は日々、自問自答を
するのだった
ある夜、夫が凛子の車をリースで
買い換えてくれると言い始めたのだ
代車よりも設備が悪く、
14年も乗っていて
エアコンもカーステレオもない
そんなオンボロ車から
新車が手に入る
さらに先日は眼鏡までも
新調してもらえた
今までハッキリ視界が
見えてなかったものが
くっきり色鮮やかに
見えるようになったのだ
凛子の世界観が
どんどん色づいて光沢を増してきている
―どんどん昇格しているな―
凛子は心の中で
確実に
凛子の人生の時間が
動き始めているのを
感じた
―段々、人生に必要な持ち物が
増えつつあると思った―
同僚と色んな話をしていると
凛子に足りないものに
気付き始めていた
その中の一つにまずは
子供時代に子供らしさで
生きて来てない事で
子どもになりたいと
思い始めていた
実は凛子の母は
続柄は親なのだが
凛子が母親役で
母が娘役な組み合わせで
デコボコ母娘だったのだ
なので正直、凛子は
子供心というものを実際に
体感したことがなかった
母は何歳になっても
永遠少女みたいな感じで
変わらない人であることで
凛子も母親みたいな自分を
変わる事が出来てはいなかった
でもこのままでいいのだろうか?
その疑問をずっと何年も前から
抱き続けてはいる
ふとひらめいた
この同僚との出逢いの意味って
これなんじゃあないか…
凛子は今まで
チャレンジしたことのない事を
見つけたら必ず
トライするって決めている
―よーし!!
今日から子供になろう―
まずは子供心意識をあえて持ち
想像することから始めて行こう
今日から同僚をしっかり感じながら
学んでいくぞ~
後はそれを母にいつ
決行するかだわ~と
思った凛子だった
母の事以外に凛子は宇宙に
いつお願いをしてみようか
タイミングを見計らっていた
そんな時グッドタイミングで
宇宙からメッセージが来た
『またlineを再開しませんか?』
以前、宇宙にlineを
ブロックされてから
ショートメールでの
やり取りだった二人であった
―ブロック解除してくれたんだ―
凛子は宇宙に
『はい。またlineで繋がりましょう』と
返事をした
その日を境に宇宙とまた
lineで会話が出来るようになった
凛子は今の職場に転職した事等
連絡を取りあえていなかった間に
起きた出来事の数々を
lineで少しずつ話して行った
宇宙も資格に無事合格して
介護のお仕事をしているらしい
いろいろ、
人間関係のもろもろがあるようで
その辺りの話も聞かせてもらった
お互いに徐々に段々…
空いていた時間を語り合う事で
埋めていけていた
また仲良く話が
出来るようになって
この調子なら
近いうちにゆっくり
日曜日の昼間とかに会って
ランチぐらい出来るかな?って
凛子は期待に胸を膨らませていた
やはり直接に会って
ゆっくり宇宙の顔を見て
話さないと
うまく伝えられない気がしていた
近々…
タイミングを見て宇宙を
ランチに誘ってみようと
思った凛子だった
宇宙も
また凛子と
また仲良くし始められて
心がウキウキしていた
凛子と会話をしていると
スキップをしたくなるぐらい
楽しくてたまらない
今ならベストなタイミングだろう…
と宇宙の中で思い
勇気を出して
凛子にlineを送った
凛子は宇宙からの
メッセージを見て
嬉しいよりも
戸惑いの方が強かった
想いがあるのは同じだが…
なぜか?
すれ違ってしまう…
どうしてなんだろう…
―お互いに求めているものが
違い過ぎているのだろうか―