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あやし見送り歌  作者: 木創たつみ
無真と探偵編
12/20

第十二話

 ……場が静まり返る。皆、どう声をかけるべきか迷っていた。アキハル本人もまた沈痛な面持ちでいた……が、すぐにパスケースを仕舞い真剣な表情に戻り沈黙を破った。

「沈んだ空気にする為にナツキのことを話したのではない。獏句、君たちの知るナツキとは何者だ?」

 アキハルの問いかけに三人は頭を捻った。

「……言われてみると、ナツキのことは全然知らないな」

 そう、いつも話をしているはずなのに、彼について出てくる情報がほとんど無いのだ。

「神の使いを名乗ってて、ボクたちに悪夢と戦えって言ってくる。そして現実世界の人間の目には見えない。これが基本情報かー?」

 コクアに続けてモスケもイメージを挙げる。

「性格でいうなら、寂しがりやで甘いものが好き。小さな子どもも好きだけど、その子どもの親のことは何故か嫌悪してる。後は何事もやたらと秘密にしたがるのと、ぬいぐるみをずっと持っていて、洗われそうになると必死で抵抗する。これについても理由は言わない。もう一つ言うと、時々“神になりたい”ってぼやいてる。これくらいかな?」

 ナツキについて知っている情報を上げてみるも、案外思いつかない。現時点で挙げたもの以外は大して重要ではないだろう。今までもナツキは秘密主義な一面があるとは思っていたが、まさかここまで何も話していないとは……。

「それとコクアがナツキを神の使いって言ったでしょ? 本人もそう名乗ってるけど……俺は嘘じゃないかなって思ってる」

「っていうのは、どういうことっすか?」

 ナツキについても漏れなく書き込むコウガが尋ねる。

「人間が神を本気で信仰してた頃ならまだしも、今の世の……神や怪物を信じていない人間に神は認識できない。だから神は使いを派遣して自分の意見を伝えるんだ、ってナツキは言っていたんだ。実際、怪物の俺たちは魔力を使って人間に化けないと現実世界に干渉できないし、人間の目に見えないからね」

 ここで一旦区切り水を飲む。フユキが顔を見るに、彼は言った通りナツキについて納得がいっていないようだ。

「でも、その神については何も話さない。そもそも俺たち怪物は神の手により作られた存在だ、ってナツキは言うけど、神を見たことなんて無い。作られて初めて目が覚めた時にいたのも外でもないナツキ。神の姿なんてどこにも無かった」

「だからモスケくんはナツキくんの証言を嘘と思っているのね。……ん?」

 ここでハツカが一つ疑問を持つ。そのことに気づいたコウガが声をかけた。

「ハツカさん、どうしたっすか?」

「今、作られたって言っていたけれど……きみたち、何歳なの?」

 見た目はコクアが中学〜高校生くらい、モスケが二十代前半、ミサクが十九あたりに見える。実際、三人は表向きにはそれぞれ十六歳、二十一歳、十九歳を名乗っていた。

「実年齢のことなら皆一歳だぞ?」

 ……けろりと話すコクアに、獏句以外の全員が固まる。一歳?

「……え、嘘」

 フユキも獏句の活動については知っていたが年齢は知らなかったようで、思わず声が出る。

「それが嘘じゃないんだよな……何回も驚かせてごめんな」

「う、ううん、大丈夫。事情は人それぞれだから……」

 幼いどころか赤ちゃんの年齢である。そんな小さな者たちが、毎晩悪夢と戦っているのか?

「……やめたいとは思わなかったのか」

「ん? どういうことだー?」

 アキハルの問いかけにコクアが怪訝そうに返す。

「獏句としての過酷な戦いを、嫌だと思ったことは無いのか?」

 しかし、アキハルの疑念とは裏腹に獏句は即座に返した。

「だってそういう目的で作られたんだから、役目は果たさなきゃだろ?」

「戦いは好きじゃないけど、俺たちの頑張りで皆が幸せに過ごせるからね」

「必要だからやっている、それだけだ」

 どうやら覚悟はとっくに決まっていたらしい。……聞くまでもなかったようだ。

「そう……そうなのね。うん、きみたちの頑張りをアタシは肯定するわ」

「嬉しいなぁ。ならお礼に飴ちゃんをあげようかな。食べる?」

 モスケが鞄から飴の入った袋を取り出した。色々な味が入っているアソートパックで、手を突っ込み適当に選んだ結果、今回は苺味だった。

「きみ、アタシより歳下なんだから気を遣わなくていいのよ?」

「怪物だろうが人間だろうが、女子供に優しくするのは男として当然のことだからね」

「あら、紳士!」

 ならありがたくいただくわ、と飴を受け取る。ついでだからとモスケは残りの面々にも飴を渡していく。コクアはその場で食べ、他は後で食べようとポケットに仕舞い込んだ。


「……ところで、議題が逸れたのだが」

 すっかり別の話題に移っていた皆を雨延が引き戻す。そう、まずは心の薄片について話さなければいけない。

「代替案について、私たちの方でも色々と考えよう。それができまるで心の薄片の回収をやめてもらうことは――」

「無理」

「……だよな」

 コクアに食い気味に拒否され頭を抑える。無真としてはどうしてもやめてもらいたいのだが……。

「あのー、オレも一つ思ったんすけど、いいっすか?」

 メモを取ることに集中していたコウガがペンを持った方の手を挙げる。進行役の雨延が許可し、彼は考えを述べ始めた。

「心の薄片って、要するに思いの欠片みたいなものじゃないっすか。思いを魔力に変えるなら、何らかの溢れた思いを食べるとか……そんな感じで、エネルギー源を何か別のものに変えられないかなーって!」

「エネルギー源を別のものに変える、か……」

 ミサクが呟いた。今まで魔力を得るのは心の薄片の回収のついでのようなものだったが、心の薄片ではなく何か別のものを代わりに消費する、と。まだ何を代わりにするかは見当もついていないが、案自体はありではないだろうか。

 ミサクがコクアやモスケに目で意思疎通してから口を開く。

「ナツキ……うちのナツキにも聞いてみる」

「いいんすか⁉ ありがとうございます!」

 これさえ解決すれば、双方が対立する理由は無くなる。何せ、対立したところでいいことなど何も無い。ただ無益な争いが行われるだけだ。獏句にも無真にも、ようやく一つの希望が差し込んだ気がした。


 その後、フユキの案で獏句と無真が互いに互いを理解する為にレクリエーションが行われた。と言っても、簡単なトランプ遊びだが。

 そのことを獏句が帰ってからナツキに伝えると、彼は“ぼくもフユキと遊びたかったー!”と酷く悔しがった。

 尚、アキハルの妹のナツキについては聞かないこととした。今聞いても恐らくはぐらかされるだろうと予想してのことだ。

 そして心の薄片の代わりとなるものはナツキの方でも探してみるらしい。どうか、上手く事が行けばいい――このことについては、獏句も無真も同じ思いを抱いていた。

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