第四話 風が吹く、花が咲く
太陽が高く上った昼前の空。犬に連れられて高台に上ったモモは、木の下に居るバーサーカーのおっちゃんに再び会うこととなる。男は、いつもの鉄のマスクをしているが、服は軽装で座禅を組んでいる。今回は赤い眼光が放たれておらず、眠っているようだった。
「ワンワン」
ワンちゃんが仮面の男に向かって吠える。すると、男は此方に気づいたようで、片手で犬の頭をポンと叩くいて、腰を上げた。
モモは、あ、あの、と震え声で男に話そうとする。しかし、モモが話す前に男が口を開けた。
「どうだ、グランゼンの町は?表向きは厳つい奴らしかいないけど、景色は中々な絶景であろう?」
男は高台の手すりの方向に向かって歩きながら話す。
「昨日の件、今日の朝の件はすまなかった。本来であればこの赤い目は隠せるのだが、怯えさせてしまったようだな。」
「い、いえ。謝るのは此方の方です。突然逃げ出したり、叫んだりして本当に申し訳なかったです。窮地を救ってくださったり、手当をしてくださったり…本当に感謝しています。」
高台に風が吹く。
「あ、あのバーサーカーのおっちゃんさん。私どうにかしてお礼がしたいです。手持ちのお金はありませんが、少しでも何か、あ、バッグがないから、手持ちのお金がない・・・えっと、どうしよう。」
二人の間に吹いた風は止んでいた、モモはモジモジして顔を俯けた。
「お礼なんていいよ。まず嬢ちゃんの体が無事でよかった。ああ、それと堅苦しいおっちゃん呼びは止めてくれ、まだ若いからな。名前はグロウ・ホットスチールだ。グロウ、もしくは騎士さんとでも言ってくれ。」
モモは様々な感情で目に涙をためながら、
「グロウさん、ありがとうございます。」
満面の笑顔と涙を咲かせて、そう答えた。
その後、グロウさんに無くしたバッグの事を話すと、グランゼン鉄道局に届けられていないか探しに行こうといわれた。また、丁度高台に居たという事で、グランゼンの都市について解説してくれた。
元々、グランゼンは古くから溶岩地帯の荒れた土地で、炭鉱業や製鉄業が栄えた町であったそうだ。しかし、グランゼン建国記にもあるように、金に目を付けた異邦人が土地からエネルギーを奪い続けたことで、土地神の怒りをかい、火山の大噴火と共に偉大なる竜グランゼンが登場する。竜は略奪者たちを消し炭にし、町全体を焦土にしたという。その後竜は体を二つに分かち、屍となってこの地に恵をもたらしたそうだ。
竜の屍には特殊な魔力と希少金属が含まれており、大災害があったにも関わらず、豊富な資源から、民の尽力で目まぐるしい復興をさせ、現在の発展都市グランゼンとなっているため、今では竜の跡。
グランゼン渓谷には天を穿つような岩石山が無数に存在するが、偉大なる竜グランゼンのあばら骨が元に形成されたらしい。
話が終わると丁度正午の鐘が響いた。
「そろそろ宿に戻ろう」
そう言って、モモは巨体の騎士と犬を間に挟み帰路についた。