第2話 推しに会いに行こう
13時。仙台行きの高速バスを降りた私は、予約していたホテルへ行くため仙台駅の地下鉄へ向かった。ほとんど交通機関を利用したことのない私にとって、駅の中は迷路のようだった。道案内の表札を頼りに歩いている時、とある歌い手グループのライブ告知のポスターを見つけ遂にこの日が来たんだと胸がドキドキした。『Secret Drop』約して『シクドロ』。
シクドロは、6人の男性メンバーで結成された歌い手グループだ。2年前に結成されたグループなのだが、その人気は凄まじく去年の夏には初の全国ツアーを成功させている。その成果もあり、今は全国冬ツアーライブの真最中だ。本当は夏ツアーにも参加したかったのだが、仕事の行事が重なり諦めてしまった。というか、スーパーマーケットで働く自分にとって土日に開かれるイベントは全て諦めなくてはいけないものだと思っていた。だが冬ツアー開催の告知配信を見た時、いつもと違う感情が芽生えた。
「今までライブに行ったことのないそこの君! 色々理由があって諦めてきたそこの君! 今回は絶対に来て。ガチで後悔させないライブにするから。一緒に最高の景色を見に行こう!」
シクドロの中で1番好きなメンバーが、ファンに向けて言った言葉。普段はアホキャラでおかしなことしか言わない彼が、頑張って気持ちを伝えようとしている。せっかく会えるチャンスを逃したくない。
東京や大阪で開催するライブなら無理だったが、自分の住んでいる東北なら何とかなると思った。そして気づいた時には、チケットを応募していた。