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たとえ"愛"だと呼ばれなくとも  作者: 朽葉千歳
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誘拐犯と高校生 (3)

 一方、男子高校生が連絡も無しに行方不明になった事から世間では根も葉もない噂が広がっていた。初めは只の家出だと疑われ警察にすら、まともに話を聞いて貰えなかったが、行方不明になって()()()経ったという事でこれは事件性が高いと判断され本格的に捜索がされる事になった。


 当然、学校でも大騒ぎになり愛斗のクラスメイトや部活仲間が個人的に捜索の手伝いをする事もあったかもしれないが、捜索から一週間経っても()()()()()()()()()()警察は調査を断念してしまう。


 都内住みという事や行方不明者には珍しい男子高校生だったという事もあり、この事は大きく新聞や全国でニュースとなり、ネットでも愛斗の行方を遊び半分で考察する者も出てきた。


『彼女と駆け落ちじゃね?笑』


『そしたら、彼女も行方不明って話題になっとるやろww』


『人身売買とかで、もう死んでそう……』


『高校生でしょ? 家出じゃないかな』


 どれも真実とは程遠い物だったが、生死さえも分からない行方不明の少年を推理小説を読む際の娯楽の様に面白可笑しく扱うのは如何なのだろうか。そっとノートパソコンを閉じながら理久は柄でもない事を思った。途端に部屋の奥から少しばかり枯れた声が耳へと聞こえてくる。


「七瀬、蛇口ひねってくれないか」


 自分のストーカーを七瀬と呼び捨てにするのは随分馴れ馴れしいが、これは彼が直接頼んだ事だ。近所の人にはルームシェアだと虚言を吐いているから誘拐犯なんて呼ばれているのが聞かれたら困る、と。彼は一端伸びをするとせっせっと部屋を出てキッチンに向かう。そして、蛇口をゆっくりと捻った。


「っん……はぁっ……」


 色っぽい声を僅かに漏らしながら、蛇口の水を飲む。蛇口の水が愛斗の口まわりに溢れ、その水がつたって鎖骨から胸元へと流れていく。加えて水を飲み込む度に上下へ動く喉仏が、決して比喩ではたとえられる物ではないくらいにとても美しい。


 ──なんか、色気凄いな……。


 彼はそう思った。ストーカーをしていた程に好きな相手が目の前にいるのに、襲う事もしないのは自制心が強いとも言えるだろう。確かに暴力は平気で振るうけれど。


「はぁ……」


 変な体制で飲んでいるので飲み疲れたようだ。見ていて疲れてしまう程に大きな溜息を付いている。飲み終わった様なので理久は蛇口をひねって水を止めた。愛斗は手足を縛られているので、口元や胸元は濡れたままだ。


 ──濡れてる……濡れ……。


 欲望に正直に破廉恥な事を想像したのか、愛斗を見つめていた彼の顔がみるみると赤く染まっていく。細く長い指で直ぐ近くにあったキッチンペーパーを手に取り、口元を撫でる様に拭いた。その手が段々と下に──。


 行くことは無く、濡れたキッチンペーパーをゴミ箱に捨て部屋に帰っていた。


「あいつ、ホントに俺の事好きだよな」


 彼に聞かれぬよう小さな声でボソリと呟いた。縛られた足をぴょんぴょんとして、監禁されている和室へと戻る。すると、突然壁にあった一枚の写真が小さな振動で愛斗の足元に剥がれ落ちたのだ。


 ──これは……あの時の……?


 その写真は愛斗が弓道で全国大会に行った際のインタビューの写真だった。栄養不足によって痩せている今とは違い、少し筋肉の付いた身体に弓道部特有の袴姿がよく似合っている。


 ──うーん……このときのインタビューなんて言ったけな……。


 頭の中の引き出しを一つ一つ丁寧に開けていくが、不思議なことに一言も思い出せない。けれども、其処までして思い出せないという事はきっと大した記憶ではないのだろう。愛斗は硬い畳の上に横になり、眠そうにしている。


 ──そう……いえば……何であいつは……俺のこ、と、ストー……カーして……たんだろう……?


 頭に不図、誘拐されれば一番はじめに思い付くであろうそんな些細な疑問が浮かんだが、突然自身を襲った眠気に耐えられる訳がなく深い眠りについていくのだった。

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