第二話
「畜生!なんで素早さを上げた俺よりアリアの方が量多いんだよ!」
「そりゃ、年季が違うもの。適当に探してもダメ、決まった場所をちゃんと探せば自然と見つかるんだから。」
「はぁ、晩飯も俺のおごりか。」
「変な約束した自分を恨むのね、ほら早く行きましょ。」
結局一ツ森での探索は私の勝ちだった。
まぁ当然だけどね。
小さいころから私がどれだけ森を走り回ってきたかまだまだイオニスになんて負けないんだから。
必要な素材を集めた私達は夕方前に王都へと戻って、その足で冒険者ギルドへと向かう。
時間が悪かったのかどこも人でいっぱいだった。
「ようこそ冒険者ギルドへって、イオニスとアリアじゃない。なに、又二人で外に出たの?二ツ森の魔物の話聞いてないわけじゃないわよね?」
「聞いたけど別に一ツ森は関係ないだろ?」
「そうそう、魔物なんかいなかったし。」
「そんな事言ってたらいつか痛い目見るんだから。」
「そんな怖い顔しないでよルーちゃん。」
「だれがルーちゃんよ。ほら早く素材出しちゃいなさい。イオニスは依頼受けてたでしょ、駆け足草10束さっさと出しちゃってよ。」
冒険者ギルドに入った私たちを迎えてくれたのは看板娘ルゥル、通称ルーちゃん。
王都に来て最初に出来た私の大切な友達。
怖い冒険者を相手に毎日仕事をして本当にすごいって思う。
あ、イオニスも冒険者だけど残念ながらまったくそういう感じじゃないのよね。
ほら、田舎くさいじゃない?
「誰が田舎者だ誰が。」
「あれ、聞こえちゃった?」
「お前だって田舎娘だろ。」
「失礼ね、私はちゃんと王都でお店を持ってるんだから!」
「はいはい、そんなことで騒がないの。万年Fランクのイオニス君は早くギルド証出してくれるかな~?」
「Fランクじゃねぇし!よく見ろ、俺はEランクだ!」
「あれ、いつの間に。」
「昨日上がったんだよ。」
「万年Fランクだったのに、がんばったのねぇ。」
カウンター越しにルーちゃんが泣きまねをしてイオニスをからかう。
そっか、Eランクにあがったんだ。
冒険者にはランクって言うのがあって一番下がFランク。
駆け出しとか新米とか、ともかく一番最初はここからスタートする。
あとは魔物をたくさん退治したり素材ををたくさん収めたりして、貢献度を上げていくことで少しずつランクが上がっていく。
でもDランクより上になるには試験をクリアしないといけないから、そこで詰まってしまう冒険者も多いみたい。
もちろん私はFランクだけどね。
「ほら、アリアも冒険者証出して。」
「はい、お願いします。」
「やーい、万年Fランク。」
「いいのよアリアは調香師様なんだから。イオニスだってお世話になってるんでしょ?知ってるんだから、お香を使って素材集めしてるの。」
「げ、何でばれたんだ?」
「そりゃぁ薬草からお香の匂いがするんだもの。あ、そうだ!今度沈静香を作って欲しいんだけど、お願いできる?」
「うん、材料はあるから工房に戻ったら作っておくね。」
「じゃあ明日依頼しに行くから、よろしく。」
可愛くウィンクをして、ルーちゃんは素材と一緒にカウンターの向こうに行ってしまった。
イオニスもルーちゃんも数少ない私の大切なお客様。
調香師様だなんてルーちゃんは言ってくれるけど、私はまだまだ新米調香師。
お店を持っているとはいえ王都に出てきたばかりでお客さんも少ないし、こうやって自分で素材を集めないと生活できないのがほんとの所。
最初はすっごい夢見てたんだけどなぁ。
王都に出て調香師になったらすぐに売れっ子になって大儲けするんだって。
そしてかっこいい冒険者とか騎士様とお近づきになって・・・なんてね。
でも現実はそんなに甘くはなかった。
どれだけがんばっても売れっ子調香師さんの足元にも及ばないし、お客さんも中々つかない。
それもそうだよね、私のお香より一流の人が作る方が効果も強いし香りもいいんだから。
調香師。
いろんな素材を組み合わせて様々な効果の出るお香を作るのが私の仕事。
例えばイオニスに使ったような素早さ向上や私が使った皮膚の強靭化。
他にも、力を向上させたり心を落ち着かせたり集中力を高めたり、魔法使いみたいに色々な事が出来る。
でも、同じ材料を使っても細かな配合や香油の混ぜ方で効果が大きく変わってしまう。
だから売れっ子になれるのはほんの一握りで、私みたな新米は小さな依頼を細々とこなすことしか出来ないんだよね。
でも私は諦めない。
いつの日かこの王都で調香師アリアここにあり!って言わせて見せるんだから。
私のお香でたくさんの冒険者を助けてそして大儲けするの。
そして大手を振って田舎に自分の工房を作るんだ。
売れっ子になったら別に王都じゃなくてもお客さんは来てくれる、そしたら村にもたくさんの人がやってきてくれるでしょう?
だからその日の為に私はここでがんばるの。
「何ぶつぶついってるんだよ。」
「うるさいわね、別にいいでしょ。」
「人がせっかく心配してやってるのになんだよ。もう一緒に行ってやんねーぞ。」
「別にいいわよ、一人で行くから。」
「一人って何かあったらどうするんだよ。」
「ま、その時はその時で考えるわ。」
「おまえなぁ・・・。」
心配してくれているのは分かるんだけど、イオニスにいわれると何かムカつくのよね。
何でかな。
「はいお待たせ、何また喧嘩?」
「喧嘩じゃねーし!」
「はいはい万年Eランクのイオニス君は向こうで手続きしてきてね。それじゃあアリアの分、買取が全部で銅貨88枚と駆け足草の買取依頼が銅貨22枚で合計銀貨1枚と銅貨10枚よ。」
「わ、そんなにもらえるの?」
「ポムの実の買い取り価格が上がってるの、ほら二ツ森に魔物が出たでしょ?あそこはポムの木が多いからそのせいで手に入りにくくなってるのよね。当分はこの価格なんじゃないかしら。」
そうか、向こうで素材を集められないから価格が上がっちゃうんだ。
一ツ森にもポムの木はあるけど、本数は少ないもんね。
他の人に見つかる前に早めに集めちゃったほうがいいかも。
「じゃあ明日もがんばっちゃおうかな。」
「さっきも言ったけどアリアは調香師なんだから、あまり外に出ないほうがいいわよ。戦えるのはいいけど何かあったら大変なんだから。イアソンじゃなくてちゃんと守ってくれる護衛を雇わないとね。」
「うぅ、そんなお金があったら苦労しないよ。」
「まぁそうよねぇ。」
護衛代わりの冒険者を雇うとなるとFランク冒険者でも日給銀貨1枚を超えてくる。
今日の稼ぎを考えてもそんな大金払えるはずが無いし、そんなお金を払うなら一人で行って報酬でご飯とか薬の材料を買った方が何倍もお得だ。
銀貨1枚あればパンも卵もハムじゃなくてお肉だって買える。
でも、そんな豪遊は夢のまた夢。
ちゃんと貯金しておかないと。
「ありがとねルーちゃん、心配してもらって。」
「だって友達じゃない。明日は仕事前の朝一番で大丈夫?」
「うん。」
「わかったわ。それじゃあアリアまた明日。」
「おわったか~?」
「お待たせ、ほら晩御飯食べに行こう!」
先に手続きを終えたイオニスに手を振って走り出す。
せっかくお金の心配しないで晩御飯が食べられるんだから、明日の分までしっかりと食べないと!