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La Cenerentola  作者: 真洋
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Nacqui all'affanno e al pianto

自分勝手すぎる人だから、いくら高名な魔法使いだという理由からではなく、生きているストレスの少なさから絶対に私よりも長生きするんだって思っていたし、‘死ぬ‘ということからすごく遠い存在の人だと思い込んでいた。

手が届く範囲に欲しいものがあって欲しいという理由から彼女のベットの周囲はモノに溢れている。よみかけの魔道書だったり、海外の情報をまとめた本だったり、最近有名なお菓子のお店を網羅した定期発行の週刊誌みたいな本だったり、申し訳程度に魔法具だったり。とにかく乱雑で、たまには掃除した方がいい!って何度も怒るけど、反対に掃除してしまったほうがどこになにがあるのかわからなくなってしまうもんだって、言うこと全然聞いてくれなかったのに。

今は余計なものが一つもなくて、このベット、こんなに広かったんだって。

綺麗になってしまっているベットも悲しいものだと思って。

いつから掃除していたんだろう。

いつから彼女は自分の死を感じていたんだろう。私は彼女が自分の老いや死を身近に感じていることを全然わかることが出来なくて、こんな風になるまで、いつまでも彼女は私の傍に存在して、私と一緒に居てくれるんだと思いこんでしまっていて。

彼女の気持ちに気がつくことが出来ずに傍にいてしまっていた。


こんなにも私を大切にしてくれていたのに。


自分の情けなさとふがいなさと、そして自分を受け入れてくれていた彼女という支えがなくなってしまう怖さに、こんなときにまで私は自分のことしか考えられなくて、本当に自分勝手だと。


「大丈夫よ。コトリ。」


苦しそうに呼ばれる名前に慌てて目じりの涙を拭うと彼女の瞳を見つめた。

どろりと濁った瞳には生命力がなくなっていることがわかって、けれどもそれが丸く綺麗で。

彼女がこぼす言葉の一言一句を、総てを記憶に残せるようにと。じっと見つめる。

この世界で私のことをちゃんと知ってくれていた唯一の人。


「大丈夫。コトリ。貴方は充分ここで生きていけるわ。」


生きていけるだろうか。

私はこの世界で何ができるだろうか。

いやこの世界で生きていくことを許されるだろうか。

今まではこの世界で高名な魔法使いが身元不明だった私の存在を保証してくれたから、この世界で生活していくことを許されたけれども。魔法使いがいなくなれば私を保証してくれるものは何もなくなってしまう。

私が生きていくために出来る仕事はあるだろうか。


でも

これから死にゆく人を不安にさせてはいけない。

甘えてもいけない。

私は、大丈夫だから、安心してくれていいから、頑張れるから。

つまって口から言葉が出なくて、手を握ってじっと見つめるしか出来なかったけど、ふっと口の端を上げてくれたから気持ちは伝わったと感じる。


突然この世界に現れて、右も左もわからなかった子供を引き取りここまで育ててくれた充分すぎる恩がある。

貴方が遣り残したことを私はきっとやり遂げて見せる。

それだけが私がこの偉大な魔法使いに返せる唯一のことだ。


握りこんだ手にぎゅっと力を込める。

彼女の指先には力がもう全くなくて、落ちていこうとする指にしっかりと指を絡める。

ぎゅっと濁りこむと、彼女はふわりと笑った。それが最後だった。

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